第41話 攪乱兵隊

 教会が爆ぜてから数時間後


 俺とウェンディとシルとエレナ、そしてマモンは軍議に参加していた。


 「では、今回の爆発は教会で封印していた牛鬼なる魔獣が復活したことによるものか?」


 「はい、報告によれば、爆発により教会の周囲500メートルが吹き飛んだそうです。」


 牛鬼の復活だけでかなりの被害が出てるみたいだ。


 「住民の避難は?」


 「教会からの周囲2キロ圏内の住人の避難を進めています。この分ならあと二時間もあれば。」


 「範囲を10キロに広げろ。」


 王の発言に軍議に参加している半数がどよめく。


 しかし、避難誘導をしている騎士団員の一人が反論する。


 「陛下、それは無茶です。あらゆる災害を想定しているとはいえ、それだけの人数が避難所に退避できるようにするには時間がかかり過ぎます。」


 「しかし、今回は異常事態だ。噴火、地震、台風、津波、どれよりも想定し得なかった状況だ。それに戦闘がある以上2キロでは全然足りない。

 出来る出来ないではない。やる以外の選択肢はない。」


 やはり、魔獣復活は想定されていないのか。


 そういえば


 「(なあ、エレナ。魔獣と魔物って何が違うんだ?)」


 「(簡単だよ。災害級の被害をもたらすものを魔獣、そうでないものは魔物。

 ちなみに、世界に改変を起こすのは神獣だよ。)」


 「(それって、魔獣と同じじゃね?)」


 とはいえ、概ね理解した。


 世界を変える神獣でも、創作物によくある創造の前に破壊はあるのだろう。


 だから、神獣すらも封印されているのか。


 おっと話が逸れてしまった。


 話が逸れていく間にも軍議は進んでいく。


 「過去の文献に牛鬼についての記述はないのか?」


 「牛鬼は体は蜘蛛、頭は牛という化け物でございます。

 昔、この魔物が暴れ数多くの町が崩壊したとあります。」


 「「「……。」」」


 教皇の回答に軍議に来ていた者たちの士気が下がってしまう。


 「しかし、封印されていた魔物なのですから、封印する手立てはあります。マモン君」


 「はい。」


 教皇の呼びかけにマモンが前に出て、一本の剣を一同に見せる。


 「教皇、それは?」


 「牛鬼を封印していた聖剣です。

 奴が復活した原因は聖剣の力が衰えたからでしょう。再度封印を施せばあの魔獣は鎮まることでしょう。」


 あの伝説の魔獣を止める算段がある。それだけでこの場の全員が士気を取り戻した。


 単純な奴らだ。


 「して、誰がその聖剣を使うというのだ?」


 「ここにいるマモン君に任せようかと。」


 「ただの学生にか?」


 「はい、聖剣は所持者を選びます。その聖剣はマモン君を選びました。今回の本討伐隊に彼を組み込むべきかと。」


 「分かった。では、マモンとやらを本討伐隊に組み込む。いいな?討伐隊総長。」


 「はい、異論はありません。」


 「では、本討伐隊は騎士団と魔導士団にマモン、ウェンディ、エレナを加えた編成で

 準討伐隊は衛生兵、攪乱兵などにカツミ、シルを加えた編成で向かう。」


 ちなみに、討伐隊は本討伐隊と準討伐隊の二つに分けられる。


 本討伐隊は、騎士や魔導士など直接的に討伐に参加する者達の総称で、逆に準討伐隊は直接的に攻撃せずサポートに回る者達のことを言う。


 なぜ俺たちが討伐隊に参加しているのかというと学園の規則だからだ。


 学園の生徒は災害時に二つの選択が与えられる。


 避難誘導か討伐参加だ。


 しかも面倒くさいことに学園側は三人以上の討伐参加者を出さなければならない。


 学園に通えるほどの身分なのだから、通えない者達を守らなければならない。というよくわからない物のせいだ。


 本当は、俺とウェンディとマモンだけが参加するはずだったが、シルとエレナがごねたため連れてきた。


 「では、カツミ殿。これから隊列を考えなければいけないのでついてきてくれないだろうか。」


 「あ、はい、分かりました。」


 今俺に声を掛けたのはカエデ隊長だ。攪乱兵たちの隊長らしい。


 この世界では珍しい黒髪ロングに気の強そうな目付きのお姉さん系の女性だ。駆け抜けているときの髪は凄く綺麗なんだろう。


 俺は何を考えているんだ?


 攪乱兵とは、俊敏に優れた能力を持つ者達が集い、ただただ走り回って敵の注意を引き付けるものだ。


 赤猫眼を持っている俺にとってはかなりうってつけの仕事だ。


 なんだかんだ早くなるだけならスキルで出来る人はいっぱいいるらしい。


 どうせなら、もっと強くて唯一無二のスキルみたいなのが欲しかった気持ちはないこともない。


 そんなことを考えていると攪乱兵たちの訓練場に着いたみたいだ。


 しかし、なんというか…、


 「ここが、攪乱兵の訓練場だ。やはり、ただ走り回って注意を引くだけの兵だと認識されているのか、正直、あまりいい場所とは言えないがな…。」


 あまり、いい環境とは言えない。これなら、学園の方がマシと言われてもおかしくないレベルだ。


 「君がこの隊に送られてきた学園の子だね。僕の名前はザクだ。短い間だけどよろしくね。」


 「はい。よろしくお願いします。」


 俺とて真面目に高校生やってたんだ、敬語くらい使えるさ。


 「取り敢えず、君の速さについて知りたいから全力でカエデ隊長のところまで走ってくれないか?」


 そういうとザクは、いつの間にか移動したカエデ隊長を指さす。


 「分かりました。全力でやればいいんですよね?」


 「ああ、頼む。手を抜かれると満足のいく編成が組めないかもしれない。」


 「了解です。」


 そういうと俺はスタート位置に着く。


 すると、周りに人が集まり始める。


 「じゃあ、自分のタイミングで出てくれ。」


 「じゃあ、行きます。」


 そんな長々と引っ張るところじゃないので、早々にスタートする。


 もちろん、目を使って。


 その瞬間、すべてが止まる。


 推定距離70メートル。


 俺は走り抜けると目を戻す。


 訓練場に爆風が吹き荒れる。


 「「「「「は?」」」」」


 ゴールにいたカエデ隊長だけでなく、見ていた人たちも固まる。


 「あの、どうしました?走り終わりましたけど…。遅かったですか?」


 嘘だろ…。まさかあれでも遅いっていうのか?


 「「「「「何今の?」」」」」


 全員がハモる。


 え?攪乱兵になるのが不思議なくらいに遅かったの?皆、どんだけ早いの?


 「カツミ殿、君は今まで何をしていたんだ?」


 「え、今までは剣の修業と学業を…。」


 「学園を卒業したら、うち攪乱兵隊に来ないかい!」


 「なぜ?」


 oh…。隊長が興奮状態だぜ。


 「そうか、なんの対価もなしには来れないか。なら私が君の嫁になってやる。これでどうだ。

 言っちゃなんだが、私は隊長をやっているし独身だから資産もある。」


 「え!?は!?」


 隊長!?


 「私を毎日抱けるんだぞ。自分で言うのもなんだが胸も大きい上に、締めるところは締まってる。毎日自慰を何回もするくらい性……」


 「わー!」


 これ以上聞いていられないので俺は大声を出してかき消す。


 「こんな私がこの隊に入るだけで嫁に出来るんだ。どうだ?毎食料理も作るぞ。」


 誰かこの人を止めてくれ。


 「あの、俺は……」


 「というか、もらってくれ!もう嫁き遅れそうなんだ。家に帰ると誰もいないのが寂しくて寂しくて…。」


 悲痛すぎる。


 「えっと…。おいくつで?」


 「17だ。」


 全然若いじゃねえか。


 いや、そうでもないか。この世界の成人は16で結婚適齢期が15から17だったか?


 この世界だと18で嫁き遅れ扱いなのか…。


 「やはり、この年で処女はモテないか…。」


 もう、誰か止めてよ…。


 「カエデ隊長。」


 「入ってくれる気になったか?」


 「俺には、心に決めた人がいます。この世界で男が何人も妻を娶れると言っても、あの二人を幸せにするまでは誰も妻に迎える気もありません。ごめんなさい。」


 「そうか…。」


 「それに、俺にはやらなければいけないことがあるんでこの隊には入れません。」


 「分かった。そういう事なら、諦めよう。」


 物分かりがいいな。とても、悲痛な声で結婚を迫って来たとは思えない。


 そんないざこざがあったが俺は臨時で攪乱兵隊に入隊した。

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