第40話 教会

 「今日は事前に連絡していたように、校外学習になっている。学園の生徒として恥じない行動をとるように。」


 先生が拡声の魔道具でそんなことを言う。


 周りからは、かったるいとか、教会でそんなに騒げることなんか無いだの、皆口々に文句を言っている。


 そう、俺たちは校外学習として、この中央国の教会に来ているのだ。


 事前に先生たちからこのことを伝えられ、各自準備するように言われていた。


 奨学金で入学している者たちの様に、準備のための資金が無い人たちは先生に申し出れば、ある程度用意してくれるらしい。


 おやつは銀貨三枚までと言われた時はこけそうになった。


 というか、銀貨三枚ってシルの値段と同じだぞ。どんだけブルジョワなんだよ。


 「楽しみですわね…、教会見学は…。」


 そんなことを考えていると、ウェンディが寄ってくる。


 俺の弟子になってから彼女は、基礎の練習を文句言わずにやっている。


 こういうのはもっと技を教えてくれとか言う物だと思ってた。


 彼女も、彼女なりに強くなりたいんだろう。まあ、理由は聞かないけど。


 「その割には、楽しそうに見えないんだけど?」


 「私、神は信じないのですわよ。」


 「へー、意外だな。もっとこう、信じれば救われるだとか言うと思ったんだけど。」


 これは、本心だ。この世界では、そこそこの人が何かしらの宗教を信仰している。最近は減ってきてるらしいけど。


 「あなたは私をなんだと思ってますの?もし、神がいるのだとしても、何もせずにただ見ているだけの神など信用出来ませんわ。」


 「よし、一回黙ろうか。教会の中に入ってまでそんなこと言ってたら、何されるか分からないぞ。」


 俺はウェンディの口を押えて、教会の中に入る。


 中に入ると、優し気な雰囲気を纏った教皇が現れる。


 「皆さま、ようこそお出でくださいました。ここが中央公国最大の教会にございます。」


 そんな挨拶と共に教会の歴史について聞かされる。


 要約すると、各地に小さい教会が複数あるがこの教会の様に、魔獣か神獣を封印している教会を、特に五大教会と言うらしい。


 名前の通り、中央公国には五つの五大教会がある。


 俺たちが来ているのは、その中心に位置する第一教会だ。


 「神を信じ、神に誠心誠意称えることで我々は救われるのです。あなた達が救われないのは心の底から神を信じていないからなのです。」


 そんな、日曜の昼にやってくるおばさんみたいなことを言われても…。


 教皇の話は、このまま三十分ほど続き、程よく寝むくなってきた頃。


 「では、我々の教会で封印している魔獣を見ていただきましょう。」


 そう言うと、教皇は生徒たちを先導してある部屋に向かう。


 「ウェンディって、ここに封印されてるのって何か知ってるか?」


 「牛鬼ですわ。」


 え?


 「もう一回言って。」


 「牛鬼ですわ。体が蜘蛛で、頭は鬼のような形相をした牛の魔獣ですわよ。400年ほど前に英雄が封印したとされてますわ。」


 それってあれだよな。確か日本では妖怪か化け物かも明確に区分されていない生き物ってやつだよな?


 こっちには魔獣としているのか?


 「克己とウェンディは何を話してるの?」


 俺とウェンディの会話にシルとエレナが入ってくる。


 「ああ、この教会に封印されている魔獣についてだよ。」


 「確か、牛鬼のことだよね。」


 「うしおに?」


 シルはピンと来てないようだ。


 「牛に鬼って書いて牛鬼だよ。知らないか?」


 「あー、私それ【ぎゅうき】って読んでた。」


 「いや、それも合ってるよ。」


 そんなことを話してると、大きな岩の前に着く。


 「皆さん、これが封印されて石になった牛鬼です。」


 「これが?」「絶対うそだろ」などと、クラスの奴らは言っているが、俺はその石の異様さに気付く。


 「この石、生きてないか?」


 「ええ、なんとなくですが、普通の生き物と変わらない。いわば、命の気配というものを感じますわね。さらに…、」


 「こう、なんていうか決闘の時に感じた人の気配より、はるかに大きな気配がするんだよ。しかもさ…、」


 「「身の危険を感じるんだけど(感じますわ)」」


 俺はすぐさま教皇に質問する。


 「あの、この牛鬼って本当に封印されてます?」


 「当たり前ですとも。遠い昔、我々人類の英雄が封印をしてくださったのです。今はすべての生命活動を停止しています。」


 どう見ても生きてるんだけど?


 「えっと…、どう見ても生きてるんですよ。ここはいったん避難した方がいいと思うんですけど…。」


 「それは、封印しているだけで、生きてはいるのですよ。」


 話すだけ無駄か。取り敢えず、大事を想定すべきだ。


 「先生、一旦ここを離れるべきだと思います。」


 「しかし、今は課外活動なんだ。勝手に辞めるというのは…。」


 まあ、そう答えるよな。


 「今、俺が感じてる気配と、教皇の言っている状態が嚙み合わないんですよ。なら、最悪を避けるために、ここは一度離れるべきです。」


 「先生、私もそう思いますわ。教皇の言っていることがどこまでも噛み合いませんし、何より命の危険を感じますわ。」


 「しかしだな…。」


 ウェンディの助け船が入るも先生は引き下がらない。


 そりゃそうだろう。簡単に引き下がったら、それこそ問題だろう。


 「あの、先生。」


 「む?なんだ?」


 話に入って来たのは、意外にもアリスだった。


 引っ込み思案な彼女は、言いたいことがあっても言えないたちだと思ってた。


 「あの、私はカツミさんの言ってることをするべきだと思います。」


 「何故そう思う?」


 「黒狼軍を退けるほどの強者が言っているんです。教皇様の言っていることと何かが食い違っているのは間違ってないと思うんです。

 それに、命の危険を感じるほどだと言うのなら、ここは離れるべきだと思います。」


 「あ、あの、生意気なこと言ってごめんなさい。」と言って彼女はイリスのもとに逃げてしまった。


 この発言を皮切りに、他の生徒から教会から離れるべきという意見が多く見受けられるようになった。


 流石に先生も事態が収束しないと考えたのか、教会から離れることになった。


 「俺は、残るぜ。この魔獣のこともっと知りたいからな。」


 一人、空気を読めないマモンを除いて。


――――――――――――――


 「牛鬼の復活は、そろそろか?」


 他の生徒がいなくなったところでマモンが口を開く。


 「もうすぐでしょう。私たちにはこの聖剣があるのですから復活しようと関係ありませんからね。」


 「そうか、もうすぐこの世界が俺のことを英雄と崇める様になるのか。」


 マモンは高らかに笑う。


 「牛鬼は復活後、すぐには活動しません。復活の反動でしばらくは、活動のためのエネルギーを貯めるでしょう。」


 「どのくらいだ?」


 「まあ、一日程度でしょうな。」


 「じゃあ、俺たちもここを離れるか。英雄になる前に死にたくないからな。」


 そう言うと、マモンと教皇の二人は陰に消えていった。


――――――――――――――


 「先生、魔獣が復活しそうって誰に言えばいいんですかね?」


 「そんな突拍子もない話、誰が信じると思う?」


 確かに。


 「取り敢えず、王城近くの騎士団に相談してみよう。」


 そう言って、俺たちは王城までやってきたわけだが。


 「あれ?カツミじゃないか。久しぶり。」


 「おう。久しぶりだなギル。」


 なんか、楽しそうに女と出てきたギルと遭遇した。


 「ギル、そちらの方は?」


 「ああ、こいつは俺の友人のカツミだ。喧嘩すんなよー。」


 雑な紹介だな。


 「初めまして、カツミと言います。ギルにはお世話に……なった事ねえな。まあよろしく。」


 「ギルの婚約者のシーアと申します。」


 ギルたちと会話していると、先生に首根っこを掴まれる。


 「おい、殿下の前だぞ。敬語を使わんか。」


 「いや、こいつに使うのはなんか違う。」


 そんなことを言うと、皆口々に「頭おかしいのか?」「狂ってるのか」とか言われたい放題だ。


 「そんなことより、何か用があるのではないか?」


 「ああ、そうだ。もしかしたら教会の……」


 俺が言いかけたその時、町に爆音が響き渡る。




 教会が爆ぜた。

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