第36話 戦意喪失

 透式流、簡単に言うなら、カウンター重視の剣技。


 だから、簡単に攻めるわけにはいかない。


 しかし、攻めなければ俺に勝ちはない


 そんな状況が、俺を焦らせる。


 返しが追い付かないほどの矢継ぎ早の攻撃ならどうだ?


 俺は、目を使わずに出来うる限り素早く、相手の懐に飛び込んだ。


――――――――――――――


 「押されてますわね…。」


 ウェンディは思わず、零す。


 「そうだね…。」


 思わずシルもそれに同調する。


 「…。」


 そんな中でもエレナは、カツミの勝利を信じて観戦していた。


 今、シル達は貴賓席のような所で決闘を見ている。


 なぜ、そんな場所で見ているかというと、決闘終了後に負けた側の親しいものが攻撃されないようにするためである。


 反対側には、マモンの下っ端がいる。


 決闘の状況はというと、カツミがかなり押されている。


 出す技、出す技、全部返されるからだ。


 シルとウェンディはそんな姿を見て、心配になってしまう。このままでは負けてしまうのでは?と。


 「カツミは絶対に負けない。」


 それでも、エレナはカツミの勝利を信じ続ける。


 「カツミはまだ本気じゃない。」


 「どうしてそう言い切れるんですの?」


 ウェンディはエレナの口ぶりに疑問を持つ。


 「カツミが修業してた期間ってどのくらいだと思う?」


 「急になんですの?そうですわね、五年くらいですの?」


 エレナは首を振る。


 「今の状態になるのにはもう少しかかってるけど、龍人を倒せるくらいになるまでたった半年しか修業してないんだよ。」


 「半年ですって!?それに龍人とも…。カツミは何者ですの?」


 ここでシルも会話に参加してくる。


 「克己は克己でしょ。一回でもその力で脅してきたことある?一回でもその力で悪行を働いたことがある?」


 「ないですわ。でも、修業期間が半年なのに、黒狼軍を撃退するほどの強さが手に入れられるわけがありませんわっ!」


 「それ込みでカツミなんだよ。まるで、戦いの神のような凄まじい力を持っていても。」


 「それに克己は、まだ修業の成果を出してない。ううん、出せないんだよこの場じゃ。」


 「なんでですの?」


 「染式流って聞いたことある?」


 ウェンディはなんとなくカツミが技を出せない理由が分かり、思わず息を呑む。


 「ええ、確か魔術師のなりそこないの流派で本物の剣士は絶対に習得しない流派と聞いていますわ。」


 「それが克己の流派なの。ウェンディはさ、カツミを見て、染式流をどう思う?」


 ウェンディはその質問に少し戸惑ってしまう。なんせ、染式流を見るのは生まれて初めてだからである。


 「カツミの剣だけを見るなら、少なくとも魔術師のなりそこないだなんて思いませんわ。でも、なぜ堂々と剣を振らないんですの?」


 「私にも分からない。カツミがどうして剣を振らないのか。」


 「克己は怖いんだよ。」


 エレナとウェンディが首を傾げているところにシルが答える。


 「強い流派だと言っても、この世界では認められてない剣技なんだよ。

 それを、周りの目がある中で使ったら、なんて言われるか分かんないじゃん。」


 「それは、そうですわね。」


 「でも、カツミだよ。絶対勝つよ!」


 「そうですわね。信じないと、勝てるものも負けてしまいますわ!」


 「私も信じるよ。絶対勝つって。誰よりも優しくて、カッコいい克己が。」


――――――――――――――


 「はあ、はあ…。」


 俺は、攻戦一方なのに追い詰められていた。


 出す技すべてが躱され、返される。


 むしろ、疲れない方がどうかしてる。


 「なんだ?もう終わりか?」


 「うるせえな…。考え事してんだよ。」


 こいつは絶対に仕掛けてこない。ただ、俺の目を見るだけだ。不自然なくらいに今回の決闘はあいつと目が合う。


 おそらく、目線とかで相手の動きを呼んでるんだろう。


 「自分は攻撃せずに、相手の攻撃待ちかよ…、だっせえ。」


 「な…んだと…。」


 「当たり前だろ。お前一度も俺に仕掛けてこないじゃん。どんだけ自分に自信ないんだよ。」


 「貴様言わせておけば!」


 かかった!


 マモンは俺の挑発に乗り、俺に向かってくる。


 間合いに入ってきたマモンは、己の剣を振り下ろす。


 俺もそれに対応して、受け流す構えをとる。


 が…、


 バキッ


 「がはっ…。」


 俺は突然とんできた脇腹への蹴りの痛みを我慢しながら後ろに飛びのく。


 マモンを見ると、剣を振り下ろしてるのではなく、蹴り上げているマモンの姿があった。


 「な…に…。」


 「言ったろ。俺の目から逃れられないって。お前の力はその程度だったんだよ。

 それが分かったなら、これで終わりだ!」


 マモンは再び剣を振り下ろす。


 もうダメだ。そう思いつつも俺は目を瞑って剣を止めようとする。


 剣を止めようとしても蹴り、止めなければ剣が。どっちみち詰みだ。


 そう考えている内に剣は迫ってきて。


 キンッ


 エリシュトラがマモンの剣を受け止めた。


 「クッソ、なんで目を瞑るんだよ。」


 俺はいったん飛び下がる。目を瞑ったまま。


 今ので分かった。奴は、俺の行動をよんでいない。予知してるんだ。


 俺と同じような目で。 

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