覚醒

第34話 中間テスト 結果

 「では、両者合意のもと決闘を開始する。」


 黒狼軍の件から、早半年。


 「お前みたいな平民が俺に勝てるわけがないだろう。せいぜい後悔するんだな。」


 「なんで勝つ前提なの?どこから来るの、その自信?」


 俺は…、


 「当たり前だろう。俺が勝つのが必然なんだから。」


 「それでは、始めっ!」


 なんで、決闘をしているのだろうか。


――――――――――――――


 黒狼軍の騒ぎから半年ほどが過ぎた。


 それまでにも、そこそこのいざこざはあったが学校ではよくある光景の物だ。


 そして事件は起こった。


 「すげえよ。この学校のテストを満点なんてさ。」


 今日は、テストの学年順位が廊下に張り出される日だ。

 ちなみに、この学校は一年に三回しかテストが無い。

 中間テスト、年度末テスト、修了証明テスト(四年は卒業筆記テスト)。この三つだけだ。後ろの二つは一緒くたにしてもいいような気がするが…。


 中間、年度末で取った成績をもとに、進学(卒業)のボーダーが設けられる。

 中間、年度末で点を取れた者達には低いボーダーを。

 そうでない者達は高いボーダーを用意される。


 だから、最悪修了証明だけ取れば何とかはなる。まあ、普段からできない奴が修了証明だけ取るなんて、甚だ無理な話なんだけどな。


 ちなみに、教科は数学のみ。お察しの通り小学生レベルだ。


 あまりこの世界は文学に重きを置かない。


 文学は、趣味である。だとか、学校に来るんだから識字は出来るものとして、最低限しか教えられない。


 そんなテストで俺は、またしても満点を取った。


 しかし、今回は満点は俺一人じゃない。


 「凄いよ、シルさん。あんなに難しいテストを満点なんて。」


 「あはは…、そうかな?」


 やはり、シルも困惑しているようだ。簡単な問題で凄いと言われるのは、相手にその気が無くても貶されてる気分になってしまうからな。


 今回の範囲は三桁以上の掛け算と割り算。あと、分数である。


 間違える要素が無い。


 一位は、同率で俺とシル。


 三位が、596点でウェンディ。


 四位が、595点でエレナだ。


 「わ、私が596点ですの?本当に…、夢じゃないですの?」


 俺の隣で、ウェンディが呆然としている。


 「当たり前だろう。俺が全部やり方から何まで教えたんだから。むしろこれくらいとってくれなかったら、凹んでたよ俺。」


 「そ、その感謝いたしますわ。あなたに勉強を教えてもらってこんなにも高得点が取れるようになりましたの。」


 そう、俺たちは四人で勉強をしていた。と言っても、俺とシルは当然のように出来る問題ばかりなので、ずっと教えてただけだが。


 「あなたに教えてもらった【ひっさん】?というものを教えてもらってから、掛け算と割り算が簡単になりましたの。それに、分数の仕組みも分かりやすく――――――」


 こんなにも喋ってるウェンディなんて初めて見るな。そんなに嬉しかったのか?


 にしても、ようやくこの世界の人が数学が出来ない理由が分かった。


 この世界では、筆算が存在しないんだ。故に途中式という概念もなく、数学力の無さが目に見えて現れる。


 学園でも、そういったことは教えられず、ただやり方を教えられるのみだった。


 これじゃあ、数学なんてできっこない。


 「カツミ!」


 「エレナ、どうした?」


 ウェンディと喋ってると、エレナが駆け寄ってくる。


 「ありがとうね!勉強教えてくれて。とってもわかりやすかったの。」


 そう言うと、エレナは俺に抱き着いてくる。


 「ちょっ、エレナ!?」


 周囲の女子がキャーキャー言ってる。


 「ふふっ、カツミだーいすき」


 エレナはいっつもデレデレだな。初めて会った時はこんなんじゃなかったのに…。


 まあ、甘えてくれるのはこっちも幸せな気持ちになれるから、ウェルカムなんだけどね。


 俺はそんなことを考えつつ、エレナの頭を撫でる。


 「ふにゃあ」


 うわっ、エレナが幼児退行した!


 そんなことをしてると、右腕に衝撃が走る。


 シルが俺の右腕に抱き着いてきたのだ。


 「エレナのデレっぷりは、もう異常なレベルだね。私も克己のこと好きだけど、公衆の面前じゃこんなことできないよ。」


 冷静な分析をするところか、ここ?


 なんにせよ、二人の仲が険悪なものじゃなくて、俺もうれしい。どっちかだけでもヤンデレ化したら真っ先に刺されそうだからな。


 「二人ともそろそろいいか?俺、もう恥ずかしくて死にそうなんだけど。」


 そう言うと、二人は名残惜しそうに離れる。


 俺たちが、甘々な雰囲気を醸し出していると、一人の男が近寄ってくる。


 マモンだ。


 「おい、お前。一体何をした?」


 へ?


 「とぼけるな!カンニングしただろう。」


 「は?してないんだけど。」


 マモンのカンニング発言に周囲がどよめき始める。


 「え?カツミさんがカンニング?」


 「そんなのあるわけないじゃない。カツミ君よ、私たちを助けてくれる人たちよ。」


 「そうだよね!」


 その会話の主の方に視線を向けると、そこにいたのは、アリスとイリスだった。


 二人は俺のこと信じてるみたい。


 「そうよ!カツミ君がそんなことするわけないじゃない!」


 「カツミ君は私たち平民にも優しく接してくれる人たちなのよ!」


 そうだ、そうだと盛り上がり始める。


 普段の行いって大事だね。


 「しらばっくれるな!なら、どうやってフルスコアを取ったんだ。」


 「フルスコアより満点の方が言いやすくね?」


 俺のふざけた答えにマモンは顔を赤くする。


 「今それは関係ないだろう!フルスコアをどうやったら取れるっていうんだよ!」


 「いや、勉強したからに決まってんじゃん。」


 してないけど…。


 勘違いしないでほしい。一応教えていたからセーフだ。…なにが?


 「そうですわよ!カツミは私に勉強を教えてくださいましたわ。実際にフルスコアをとってもおかしくない程、カツミは頭がいいですわ!」


 「ほう、ならカツミとやら、この問題が解けるかな?

 1から100までの数字の和は?」


 「5050」


 俺が即答すると、場が静まり返る。


 「な、な!?」


 「あのなあ、正解が分からない問題を出すんじゃねえよ。」


 「じゃあ、どうやって出したんだよ。まさか、元々知ってたなどと言うまいな?」


 なんでこんな自信ありげなんだ?


 まあいいか。数列の和で求められるけど、それやったら面倒ごとになりそうだからな。


 簡単な考え方でいいか。


 「1+2+…+100の式を二つ作って、(1+100)+(2+99)+…+(100+1)の式に組み替えるんだ。

そうすると式は101+101+…+101になる。そんでもって、1から100までは100項あるわけだから、101×100で10100。

でも、その式は1から100の和の二倍の数値だから10100を2で割って、5050が答えだ。」


 俺が説明を終えると、周りから「すげえ」だとか「そんな考え方があるのか」など様々な反応が見受けられる。


 一方、マモンは顔を真っ赤にして、怒りに震えている。


 今のは完全に自爆だろ。


 「けっ…とうだ。」


 「え?」


 「決闘だ!貴様の悪事は俺様が暴く。」


 マジなんなのこいつ?

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