第33話 始動

 「王位継承権一位のギルだ。」


 王位継承権一位という事は、この中央都の次代の王なんだろう。


 「えっと…、その王位継承権一位のギルさんがなんの用で?」


 「さん?俺をさん呼び?面白い奴だなあ。父上の言ったとおりの人だ。」


 俺の言葉の何が気に入ったのか知らないが、ウけてるならいいや。


 「というか、何しに来たんでしょうか?」


 「ああ、そうだった。さっきのスピーチだが、あまりにもひどいものだったからな。」


 初対面で言うことがそれかよ。


 「そうですね、あんなのはやったことないし、急に言われたので。」


 「そうか、なら俺が教えてやろうか。」


 「いえ、結構です。」


 冗談じゃない。何故そんなことを…。


 「そうか、そうか、なら気が向いたら訪ねてこい。歓迎してやる。」


 そう言うと、第一王子ことギルは機嫌よさげに去っていった。


 「何がしたかったんだ?」


 こうして、祝賀会は滞りなく終わりを迎えた―――――――。


 「ってことがあったんだよ。」


 俺は、祝賀会が終わった後、シル達と共に寮へと帰っていた。もちろん、馬車でだ。


 「あ、あなた第一王子に対してなんて不敬を…。」


 ウェンディがおろおろしてるが、無視しておこう。


 「克己大丈夫だった?何か変な事されなかった?」


 「大丈夫だよ。特に何もされてないし、笑いながら去って行ってたし。」


 「本当に大丈夫なの?」


 まあ、大丈夫だろう。多分父親に過干渉しないように言われてるんじゃないかな?


 「だとしても、王子からの提案を蹴るなんてあり得ませんわ!」


 さっきからウェンディがうるさいな。


 「まあ、多分大丈夫だよ。何かされそうなときはその時考えよう。」


 「無視しないでくださいまし!」


 「分かったよ。俺は貴族じゃないし、そこら辺のしがらみもよく分からないし、関わってないから問題を大きくする意味もないから大丈夫だよ。」


 俺は少し気だるげに話す。


 もうねぇ、そんなことよりも…、


 「うっ…、気持ち悪くなってきた。」


 最早恒例の車酔いならぬ、馬車酔いである。


 「カツミ、酔っちゃったの?」


 今まで黙っていたエレナがここぞとばかりに声をあげる。

 

  だが、気持ち悪くて受け答えが出来ない。


 「ほら、カツミ私の膝使って良いよ。」


 そう言うとエレナはポンポンと自身の膝を叩く。


 俺はその誘いに無言で乗る。


 「ほら、気持ちいいでしょ。あったかいでしょ。」


 エレナが幸せそうに話しかけてくる。


 「ああ、気持ちいいし、あったかい。」


 「ふふっ、嬉しい。」


 俺の返事にエレナは一段と笑顔になる。


 「シル、いいんですの?」


 「いいよ、帰りはエレナって約束してるし。それに…、」


 「それに?」


 「あんな幸せそうな顔をしているエレナから克己を引き剝がしても後味が悪いしね。」


 そんな平和な会話を聞きながら、俺はエレナの膝枕で入眠した。


――――――――――――――


 中央公国教会 封印聖堂


 巨大な封印石の前に二人の男が現れる。

 一人は、かなり身なりが良くこの教会の教皇と見受けられる。


 もう一人は、どこかの学校の制服を着ており、その尊大な態度から貴族と見受けられる。


 「これが牛鬼っていうやつか。」


 「はい、これが伝説の魔獣【牛鬼】であります。」


 貴族の少年の問いに、教皇らしき人物は答える。


 「牛鬼を倒すのには、この聖剣が必要なんだな?」


 「はい。それはかつて、勇者なる者がこの魔獣を封印する際に牛鬼を弱らせた剣です。そして、牛鬼の封印はその剣で保たれています。」


 少年は、その言葉を聞くと容赦なく剣を抜く。


 「なら、封印を開放して、俺が倒してやる。俺が英雄だ。」


 「はい。あなた様が英雄になれば、この国はもっと豊かになるでしょう。それもまた神の御心なのですから。」


 少年は興味なさげに教皇の話を聞く。


 「いつになったら、この封印が解けるんだ?」


 「早く見積もっても半年、長くて九か月程でしょうか。緩やかに封印が解けていきます。それまでにあなた様は英気を養ってください。」


 「半年もあれば、牛鬼を倒す準備などたやすいものだ。」


 教皇はその言葉を聞くとにやりと笑い、誰もいない聖堂で声高らかに宣言した。


 「世よ、刮目するがいい!英雄マモンが誕生するのはもう時間の問題だ!」


 そう宣言すると、教皇は満足したのか封印聖堂を去っていく。


 一人残された少年――――マモンは独り言をつぶやく。


 「この世界の女は全員俺のもんだ。金も地位も名誉も何もかもだ。」


 聖堂に嘲笑うかのような声が響き渡る。


 「神様からもらった、このチートスキルを使って、最強の英雄になってやる。そして、戦いを生き残るのは俺だ。





 俺は最強の転生者だからな。」









 学園編完

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