第32話 祝賀会
「これより、黒狼軍を見事に撃破した一行の入場です。」
祝賀会の司会のセリフで俺たちは拍手と共に入場する。
「では、各人は自由にお過ごしください。」
司会がそう促すと、参加者たちは皆談笑を始める。
「克己ー、見てよ美味しそうでしょ!私アレ好きなの!」
シルは、祝賀会の料理がかなり美味しいらしく興奮している。
「というか、シルは元貴族なんだからこういうのよく食べてたんじゃないの?」
「克己は分かってないね!美味しいものはいつ食べても美味しいんだよ!」
「訳分らんわ!」
シルとそんなやり取りをしていると、袖をくいくいと引っ張られる。
誰かと思い振り返ると、エレナだった。
彼女も普段食べられないような食べ物に困惑気味のようだ。
「カツミはさ、私の料理とどっちが好き?」
「もちろんエレナの料理さ。あんなにも俺の好みに合わせてくれた料理を出してくれるのはエレナだけだからね。」
俺は脊髄反射で答えた。返答を間違えたらヤバイやつだ。だけど、全部本心だ。
「そっか…、よかった…。」
そう言って、エレナははにかんで見せる。
なんだ、この可愛い生き物は!
俺が悶絶していると二人組から話しかけられる。
「あ、あの!」
「はい?なんでしょう?」
一人は俺と同い年位の男、もう一人はそれより少し年上の少女。
「う…そ、その…。」
「黒狼軍の一派を撃退したというのは本当ですか?」
おろおろとしている男に代わって、少女が俺に質問する。
「まあ、そうですけど…。」
「どんな奴だった?」
どんな奴?いっぱいいたかんな。取り敢えず頭の特徴言っとくか。
「ミニガン使ってた。」
「みにがん?」
ミニガンじゃ伝わらないらしい。
「スキルが確か【重加速】だったかな。」
「それは本当か!?」
少女が俺に迫ってくる。
「本当ですけど…。何か問題でも?」
「あ、あの…、そいつが僕たちの両親を殺したんです。」
「両親を?」
「そうなの。半年くらい前だったかしら、重たい世界の中で両親は殺されたわ。幸い、私たちは無事だったけど…。」
「そうか…。」
この人たちは俺に対してどんな感情を持っているのだろうか?好意的だと良いんだけどね。
ていうか、両親?え?
「二人って兄妹なの?」
「そうよ、義理のだけどね。」
そうか、義理のか…。仲良さそうだな。
「カツミ様時間です。」
兄弟と会話を中断させられる。まあ、俺自身もやることがあるのだ。
「えーと、二人ともちょっと俺やることあるからさ、行ってくる。」
「「あ、ちょっと待って!」」
「ん?」
俺を呼び止めた二人は息を合わせて俺に言った。
「「ありがとう!」」
――――――――――――――
「やば、二人の名前聞くの忘れたわ。」
ま、いっか。
「では、カツミ様お願いします。」
俺は、登壇に立つ。
俺のやることとはスピーチだ。黒狼軍を撃破したものとして、被害者たちの希望として、自分の言葉で喋って欲しいとの事だ。
俺が立つと、会場が静まり返る。
「えーと、今回はお集まり頂きありがとうございます?」
しまった!テンパりすぎて疑問形になってしまった。
「この度私は黒狼軍の一派を撃破しました。皆さんも知ってると思いますが…。」
駄目だ。俺のスピーチが下手過ぎて会場が盛り下がってる。
「先ほど、被害者の家族の方とお話をさせてもらいました。話は辛いことの一部しか聞くことが出来ませんでしたが、とてもつらいものだというのは伝わりました。」
堅苦しい。やめよう、こんな喋り方。
「今回の件で、黒狼軍がいかに厄介なものかは理解したつもりだ。しかし、まだまだ上がいるとみてもなんらおかしな話ではない。故に、あなた達のような一般人では太刀打ちできないだろう。」
会場の人たちから、怒りの表情が見受けられる。
「でも、俺なら何とか出来るかもしれない。あなた達被害者の無念を俺が晴らせるかもしれない。あなた達にできないことは俺がやる。だから、俺を頼ってくれ。」
華怜の時みたいに頼られないなんて嫌だから。
「何か出来るかもしれない、それなのに守れなかった、助けられなかったじゃ、後味悪すぎるだろ。こんな奴にとか、こんな奴じゃ敵わないとかじゃなくて、取り敢えず頼ってほしい。俺を…信じてくれ!
これでスピーチを終わります。引き続き祝賀会をお楽しみください」
俺がそう告げると、会場の何人かは拍手をしてくれている。
この中で何人が俺を頼ってくれるのだろうか。
俺はひとまず会場を出て休憩する。
すると、こちらに同い年位の男がやってくる。
ん?誰だ?
「やあ!僕の名前はギル=ガラハンザム。王位継承権一位のギルだ。」
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