第30話 招待
中央都ガラハンザム王城
その中でひそかに二人の男で会話が行われていた。
「アルザミア学園の生徒が黒狼軍の一部を撃退した?」
「はい。そういった報告になっております。」
「にわかにも信じ難いな。そこいらの賊ならまだしも、黒狼軍の一部か。」
一人が信じられないという風に、学園からの報告書を見る。
「はい。にわかにも信じがたいですが、こうして報告書が来ている以上事実なのでしょう。」
もう一人の返事に男は「うむ…。」とうなる。
「取り敢えず、本人に話を聞くことにしよう。どちらにせよ、黒狼軍の被害者に紹介することになる。
相応の褒賞も与えねばな。」
「そうですね。では、賊を撃退した学園の生徒、四人を王城へと招待し、祝賀会を開くことにしましょう。」
――――――――――――――――
「克己」「カツミ」
「「お弁当一緒に食べよ」」
「お、おう。」
今まで、二人がお弁当を一緒に食べようなんて言ったことが無いので、俺は少々戸惑ってしまう。
うわ、凄い。男子からの殺気が凄い。
平民に興味ないくせに、この二人には興味あるんだな。よくわからん奴らだ。
そういや、シルって元貴族か。そこら辺の匂いを感じ取ってんのか?
「イチャイチャするのは良いのでけど、ここでは控えてくださいまし。」
うお。ウェンディまで寄ってきた。つか、イチャイチャって。
「もー、ウェンディ、イチャイチャなんてしてないよ。」
「いや、イチャイチャして…」
「私たちのイチャイチャはこんなんじゃないから。」
「ちょ、シル!?」
シルがとんでもないこと口走りやがった。
「そ、そうなんですの…。」
ウェンディが恥ずかしさのあまり俯いてる。
どうすんだよこの空気。
と、そこで助け船が現れる。
「えーと、カツミ、シル、エレナ、ウェンディはこのクラスにいるか?」
これ幸いと俺は名乗り出る。
「はいはい。なんでしょうか?」
「あのな、この間の賊の襲来の件があったろ。」
「はい、ありましたね。」
「その件で四人に王城から招集が掛かった。」
「「「「え!?」」」」
見事に四人の声が被った。
――――――――――――――
「でも、カツミ凄いよね。まさか、噂の黒狼軍を倒してたなんて。」
黒狼軍
軍とは名ばかりの犯罪者集団
中央都の騎士団が総力を挙げて討伐に出たが、結果は、騎士団の討伐隊はほぼ壊滅、騎士の証言曰く、様々な強力なスキルと見たことない武器を持った者たちが大勢いたという。
そんな集団の一つを
今回の名目はあくまで黒狼軍の一部を壊滅させた俺たちへの褒賞の授与だ。
だけど、それだけで終わるのかな?
俺たちは現在、王城へ行くために馬車を使っている。
馬車という事は…
「ごめん、俺気持ち悪くなってきた…。」
そろそろ、俺が限界を迎えていた。
「そういえば克己、前も酔ってたもんね。ほら、私の太もも使っていいよ。」
そう言うとシルは、自分のももを指さす。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて。」
そうやって俺は膝枕をしてもらい、見事に入眠した。
数時間後
「克己、起きて。王城に着いたよ。」
「んあ?着いたの?」
俺は、眠たい頭で考えながら、体を起こす。
「カツミったら、よく寝てたよね。そんなにシルの膝枕気持ちよかった?」
「まあ、気持ちよかったよ。なんかこう昔を思い出すっていうか。」
「へー、じゃあ帰りは私がやってあげる。」
エレナは少し不機嫌そうに言う。
なんだ?どうしたんだ?
そんな、やり取りをしてると先に進んでいたシルが、大声で呼んでくる。
「おーい!早くしないと置いてっちゃうぞー!」
「わかったー!
ほら、エレナ、行くよ。」
「あ、うん…。」
俺は、負けじと大声で返事をし、エレナの手を引っ張って王城の中へ入った。
王城へ入ると、まず応接室に通される。
その中で少し待っていると、中年の男Aと中年の男Bが入ってきた。
中年の男Aが自己紹介をする。
「初めまして。私はケイス=ガラハンザムだ。」
その名を聞いた瞬間というか、その男が入ってきてから、シルとウェンディがかしこまっている。
俺とエレナは目の前にいる男を知らないので、二人が何をしているのかさっぱり分からない。
「貴様ら!陛下の御前だぞ!かしこまらぬか!」
突如、中年の男Bが叫びだす。
は?何言ってんだこいつ?
いや、待てよ?ガラハンザムってこの中央都の名前じゃね?てことは。
「あー、あんたが王様か。」
「わっ、克己ちょっと。」
かしこまっていたシルが初めて慌てふためく。
と、同時に隣の中年の男Bがキレる。
「貴様!誰がお相手だと思っている!」
「そりゃ、この中央都の王様だろ。それよりそっちこそなんだよ。用が無いんだったら帰るぞ。」
「き、貴様!」
「よいではないか。確か、カツミといったな。私のことはどのくらい知ってる?」
「この中央都の王ってことと、学校で習ったことまでですね。」
「そうか、ならその喋り方でいてくれ。なんなら、私たちの子供たちにも、似たような態度で接してくれないか?」
俺にはこの人の言ってることが一つも分からん。
仮にも王族だろ?そんなこと言って良いのか?
…俺が言えたもんじゃないか。
「陛下、さすがにそれは…。」
やはり、平民に対して、それは無いだろうとBが食い下がる。
「よいではないか。私も子供たちも、対等な存在を求めている。いい機会だ。」
王が、若干の笑みを帯びつつ答える。
あれ?俺、気に入られた?どこを?
「さて、話が逸れたが、件のことについてだが…。」
王の顔つきが神妙なものになる。
「今まで黒狼軍が出してきた、被害は大きい。ついては、その被害者たちの希望となってほしいんだ。」
「え?」
なんて?
「えっと…、王様、どういう事でしょうか?」
エレナが、理解できずに質問する。
「そのままの意味だ。これまで黒狼軍は多大な被害を出してきた。
被害者は、心を閉ざしたもの、自死を選んだ者、など、多岐にわたる。
だが、今一番苦しんでいるのは、残された、被害者家族だ。」
「そして、この間組まれた討伐隊は、無残にも撤退。」
ウェンディが補足する。
「その討伐隊の遺族たちも大変辛い思いをし、黒狼軍を憎んでいる。」
「そこで耳に入ってきたのは、学園襲撃を鎮圧した、という情報。」
シルが、補足する。
なんなの?流行ってんの?最後まで王に言わせてやれよ。
「黒狼軍を一部とはいえ全滅させた、という君に、被害者たちに会ってほしいんだ。」
この人の話を要約すると、被害者たちの願いは俺によって、叶えられる。
という、希望を見出させ、立ち直れるようにしてほしい、ってことか。
「分かりました。今現在、それが出来るのが俺だけというのなら、引き受けましょう。」
「ありがとう。宰相よ、祝賀会の準備を任せられるか?」
「御意に。陛下は?」
「私はこの少年にまだ話がある。」
え?話終わってないの?
「え?ほかに話すことってありますか?」
「あるにはある。だから、私とカツミ以外、席を外してくれないか?」
「え?カツミがなんで?」
しかし、エレナは残ろうとする。
「分かりました。ほら、行くよエレナ。」
「でも…。」
「大丈夫ですわよ。あのカツミが簡単にやられるわけないでしょう。」
「うん…。」
二人に説得され、一応は頷いたみたいだが、納得はしてないみたいだ。
三人が出ていき、部屋に二人だけとなると、王が口を開く。
「ここからは私個人として、君に問う。出来るなら、嘘はつかないでほしい。」
「分かりました。」
相当な質問じゃない限り、狼狽えないし、嘘もつかないぜ、王様。
だが、次につぐまれた言葉に俺は戸惑いを隠せなかった。
「君は、転生者じゃないか?」
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