第29話 後日談

 「本当にありがとうございました!」


 賊の襲来後、目を覚ました俺は、学園の保健室のベッドで静養していた。


 暇なので、授業内容を教えに来てくれたウェンディと談笑していたが、俺は見ず知らずの生徒に感謝されていた。


 「誰?」


 「知らなくても無理はないですよね。私は二年のクリム=カナシアです。」


 上の学年の先輩がなんの用だ?


 「この度は、私の恋人を助けてくださり、誠にありがとうございます。」


 そう言うと、彼の後ろから、女子生徒が現れる。


 というかこの人、どこかで見たような?


 「あら?あなた、賊に捕まっていた方では?」


 ウェンディの言葉で俺も思い出した。


 「あー。あの職員室で人質にされてた。」


 「あの…。その節はどうも…。」


 人質になっていた女子生徒はペコリと頭を下げる。


 「いいよ、あの状況なら助けて当然でしょ。」


 俺が当たり障りのない返事をすると男子生徒もといクリムが俺の手を掴んでくる。


 「本当にありがとうございます。私の掛け替えのない存在を、フィルを守ってくれて。

 本当にありがとう。」


 「お、おう。」


 本当に恋人が、フィルのことが大切だったんだろう。流石の勢いに俺も若干引いてしまう。


 「(ねえ、フィルさん。カツミがあんなに困っているところを、私初めて見るんですのよ。)」


 「(そうなんですか?私的には初めて見た姿が人を躊躇無く殺した所なので少し怖いんですが、カツミさんは案外いい人なのかもしれませんね。)」


 ウェンディとフィルがコソコソと内緒話をしている。


 「しかも、あの一件以降はというものの、フィルがとても積極的になってくれて、この間遂にフィルとの初めてを迎えたんだ!」


 「ちょ、ちょっとクリム!」


 「いや、一ミリも興味ないよ。」


 他人の性事情なんか知りたくない。


 「とにかく、君にはとても感謝している。君が使ったと噂になっているスキルのことで、とにかく偏見を受けるだろうが、辛くなったら相談してくれ。

 それがせめてもの恩返しになるといいな。」


 「分かった。何かあったら相談するよ。」


 「じゃあ、さようなら。」


 そう言うと、クリムとフィルは保健室を出て行った。


 「そろそろ教えてくれませんの?」


 「ん?何がだ?」


 ウェンディが質問してくるがなんのことかさっぱり分からん。


 「なんであの時、先生に報告に行かず、制圧をしたんですの?」


 あー。そのことか。


 「単純に、今回の事件は学園の内部から起きたものだと思う。」


 「なんですって!」


 ウェンディがバンッとノートのある机を叩く。


 「今回の目的は、平民の女生徒を攫い、奴隷にしよう。というものだったんだと思う。」


 「どういうことですの?」


 ウェンディはすぐに冷静になって、俺の話を聞く。


 「今回の犯人は、非常に傲慢で自分勝手な奴だ。」


 「その心は。」


 その心は?


 俺はウェンディの言葉をスルーして、続ける。


 「犯人は、このエリート校に、卑しい平民が通うなど我慢ならないんだろう。

 だから、今回の襲撃を考えた。」


 「どんな内容ですの?」


 「良い状態の奴隷をタダで手に入れることだ。」


 「え?」


 ウェンディは何一つ理解が追い付いていないみたいだ。


 「なんでですの?その者曰く、平民は卑しい存在なのでしょう?

 なのに、なぜそのような存在を抱こうとするので?」


 まあ、普通はそう思うよな。


 「卑しい存在でも、性欲を処理する道具としては格安で使える。

 だから、平民の奴隷が、没落した貴族の奴隷が存在する。」


 「そ、そんなことって…。」


 「あるんだよ。実際、賊は女子生徒の処女を奪ってから、引き渡せという命令を受けていた。

 そいつにとって、平民は道具なんだよ。自分が高い存在になるための。」


 「だ、だとしても、襲撃には何の意味があるんですの?」


 「簡単だ。何人か攫ったのを見計らって、賊を撃退するふりをして英雄になろうとしたんだろう。」


 「攫われた人たちは?」


 「救えなかった犠牲者。として、処理するつもりだったんだろう。」


 「許せないですわっ!」


 俺の推理にウェンディは激昂する。


 「落ち着け、ウェンディ。相手は十中八九貴族だ。下手なことをすればどうなるかわかったもんじゃない。」


 ウェンディはその言葉にピタッと動きを止め、俺に向き直る。


 「十中八九貴族?カツミは犯人が分かってるので?」


 「ああ。推察の域を出ないが、なんとなくは分かっている。」


 「誰なんですの?」


 「いただろ。俺が偵察に行くと言った時食い下がった奴が。」


 ウェンディがゴクリと唾を呑む。


 「マモン=ブローカ」


 「な!?」


 驚いている。そんなにか?割と妥当な予想だと思うんだけど。


 「まあ、犯人が予想外だったとしても手出しするなよ。相手が何をするかも分からないし、なんなら犯人じゃないかもしれん。」


 「分かりました。このことはカツミに任せます。」


 そうしてくれると助かる。最悪マモンは殺さなければならないだろうから。


 「それはそうとその問題間違えてるぞ。」


 「え!?本当ですの?」

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