第28話 ニ
「ああああああああああ!」
俺は絶叫しながら、走り出し、弾丸をすべて斬り落とす。
今の剣ならスピードに耐えられる。
「さあ、ひとっ走り付き合えよ!」
俺が突如として走り出し、弾を全て斬り落としたので、賊は目を丸くする。
「てめえ、なんで普通に動けんだよ!」
周りが遅くなってるなら、俺が早くなればいい。
行き当たりばったりで、脳筋じみているがこれが最良の選択だろう。
「遅くするスキルがあるなら、速くなるスキルもあるに決まってるだろう。」
「なにわけわかんないことを言ってやがる!
死ねやああ!」
賊はスキルを継続したまま、ミニガンを乱射しようとするが、それよりも速く俺が間合いに入る。
「させるかよっ。」
剣を振り上げて、銃口を上向きに弾く。
俺が男を斬るために再度構えなおし、斬り込もうとする。
しかし、男もまだ、諦めていない。男は、懐に手を入れ、黒い物質を取り出す。
(俺の武器は一つじゃないんだぜ。)
男は不敵に笑うが、視界内にカツミの姿はない。
(どこに行った?)
突如いなくなった、カツミに男は困惑する。
だが、前にばかり気を取られていたので、簡単に裏を取られてしまった。
「ふっ!」
カツミの放った一閃は、男ではなく、そいつの背負っていた鞄のようなものを破壊した。
(な!?しまった!)
賊の慌てた様子を見て、俺は不敵に笑う。
「その、動揺具合を見る感じ、その背中にあった奴壊されたくなかったみたいだね。」
「くっ…。」
正直、背中に何かあるかなんて、賭けだった。ただ、ミニガンをつかうのには、相当量の弾が必要。それをどこにしまってあるのか考えたらなんとなく弾倉がどこかにあるのは分かった。
後は、前世の記憶頼みだった。
華怜が見てたアニメで、銃撃戦のシーンを何度か目にしたことがあった。
その中で、ミニガンを使っているキャラが鞄のような弾倉を背負っていたような記憶があった。俺はそれに賭けた。
結果は見事にビンゴ。奴のミニガンを無効化できた。
ただ、そこで問題が出た。奴が、懐から取り出した武器、所謂、
こうなると、奴は何を持っているのか分からない。ハンドガン以外にも何かあるかもしれない。
しかし、賊の男は、内心焦っていた。
(クソっ、ヤバイ。主力武器が使えなくなっちまった。高かったのに。
このガキ絶対殺す。いや、殺すんじゃ甘い。あいつの女を目の前で犯して、絶望させて殺してやる。)
悲しいかな。カツミが思っているほど、男は頭が良くなかった。お高い武器を破壊されて、冷静さを失っていた。
だが、カツミは賊が奥の手を持っていると勘違いしているので、カツミは攻勢に出ることが出来ない。
そして、二人の間の均衡を先に破ったのは賊の方だった。
「うおおおおおお!」
賊が俺に向かってくる。
ハンドガンの意味は?とは思うが、今此処は重加速によって、物体の相対速度が遅くなっている。多分撃っても当たらないと思ったんだろう。
「シッ!」
俺は冷静に切り返す。
クソっ、なにかあるだろうから、下手に攻撃できない。
それに、これ以上のスキルは、この場で使いたくない。
人の目がある。
でも、最悪使うか…。
「なにボケっとしてやがる!さっさと這いつくばれよ!」
対して、賊の男は攻撃が単調だった。
突っ込んではあしらわれ、突っ込んではあしらわれの繰り返しだった。
そこまでやれば、俺だって気付く。
こいつに、もう手札が無いと。
「もう、きれるカードが無いんだろ?なら、さっさと諦めろ。」
「う、うるせえ!大人しく、その女が犯されるの見て絶望しやがれっ!」
ブツッ
何かが切れた。
あぁ。これが、本気でキレるって事か。
シルは、いや、華怜は、襲われて、傷付いて、壊れて…。
そんな、華怜を犯す?
ふざけるなよ。
お前達クズのせいで、なんで華怜が傷付くんだよ。
また、俺から元気な華怜を奪うのか?
また、あんなにも痛々しい華怜を見なきゃいけないのか?
そんなことになるくらいなら…。
「開門、第二獄門」
俺の背後に大きな扉が現れる。
もちろん、このクラスにいるやつらは、こんな凶悪なスキルは知らないだろう。
「クソっ、なんだこれ…。」
扉が出現した瞬間、賊の男の足は地面から隆起した土に捕らえられ、その場から動くことが出来ない。
「血に溺れ、尽きる事無き阿鼻叫喚の針地獄
詠唱を終えた瞬間、賊の周りの地面が、盛り上がり賊を囲むように、十字架が出来た。
中は空洞で身動きが取れるのか、ガンガン、と叩く音が聞こえる。
「なんだよこれ!?出せよ!おい!はや…グエッ」
賊の悪態は最後まで続かなった。
十字架の中で男を、何重もの針が襲ったからだ。
そして、術式後、役目を終えた十字架は、賊の死体ごと何事もなかったかのように、地面の中へと消えていった。
男の死とともにスキル【重加速】が解ける。
「きゃっ」
落下中だったシルが教室の床に落ち、悲鳴を上げる。
俺は、シルの傍に飛ぶように駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でも、」
シルは心配そうに俺の左腕を見る。
「克己の腕が血だらけだよ。そっちこそ大丈夫なの?」
「ああ、俺なら大丈夫。めっちゃ痛いけど…。」
大丈夫。と言おうとすると、グラリと視界がゆがむ。
そういや、出血ってやばいのって、痛みより血が足りなくなることじゃね?
それを最後に俺の意識は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます