第26話 通信機越しの死神

 『私メリー。今、学長室にいるの。』


 「は?」


 通信がそこで切れる。


 「なんだ?メリーって誰だ?」


 ここは生徒会室。

 生徒会の役員を拘束してこの部屋を今回の襲撃の管理室にしている。


 今さっき、学長室の定時報告を取ろうとしたら、男の声でメリーと名乗る奴に謎の通信を受けた。


 (何なんだ?学長室にいた奴はどうなった?

 そもそもメリーってなんだ?)


 男はメリーと名乗る者の正体を探るために拘束している生徒に質問する。


 「おい、メリーってやつはこの学校にいるのか?」


 しかし、生徒会の役員とて人間。生徒一人一人の名前を憶えているわけがない。


 「し、知りません。」


 「ちっ、使えねえなあ。」


 男が悪態をつくと先ほどの通信機から、先ほどの男の声がする。


 『私メリー。今、三階の階段前にいるの。』


 三階というと生徒会室がある階だ。


 「おい、てめえなんのつもりだ。」


 男はイラつきながら怒声をとばす。


 『なんのつもり?』


 「ああ、そうだ。

 というか、その通信機を持っていた男はどうした?」


 『殺した。』


 「え?」


 生徒会役員たちは、男の血の気が引いていくのが分かった。


 男も少しずつ冷静さを失い始めた。

 なぜなら、その殺されたという男は、かなりの魔術の使い手だった。生半可な戦力じゃやられない。


 (馬鹿な!あいつがやられるなんて。

 そもそも、依頼内容が違うじゃないか。適当に平民で見た目の良い女を選んで、処女を奪って、依頼人に引き渡すだけだろう?

 俺たちを一人も殺さない約束じゃないのか?)


 そんな男の考えとはお構いなしに通信機の男は言葉を紡ぐ。


 『なんのつもりか、だって?

 殺すつもりだよ。』


 「お前誰なんだよ!」


 『私メリー。君を殺す死神だよ。』


 「な!?」


 そこで通信は途切れた。


 「クソっ、なんなんだよ!」


 男は強がってはみたが、その顔は明らかに恐怖に支配されていた。


 「な、なあ、死神?が来るんだろ?

 俺たちは大丈夫なのか?」


 「さ、さあ、分からないよ。」


 「黙ってろ!」


 「「ひっ。」」


 (クソっ、どこの誰なんだ?俺は死にたくねえんだ。

 俺は、まだ泣きながら懇願する女を犯したいんだ。)


 男がこんな気色悪い考えをしているとは誰も気づいちゃいないだろう。


 その時、また、通信機から声が聞こえる。


 『私メリー。今、生徒会室の前にいるの。』


 ブツッ。


 男には通信機の切れる音がより一層響いているように思えた。

 それは、まるで、自分への死の宣告かのような。


 「ここで死ねるかあっ!」


 男がバンっと扉を開けるが、そこには誰もいない。


 しばらく男は周囲を警戒していたが何も起きず、やがて安堵し、扉を閉める。


 「はっ、誰もいないじゃねえか。」


 しかし、


 「ひぃっ。」


 生徒会の役員たちは男の後ろを見て、恐怖の色に染まる。


 男は後ろに何かいるのに気付くが恐怖で振り向けない。


 そして、後ろの何かが声を発する。


 「私メリー。今、あなたの後ろにいるの。」


 首筋にとてつもない衝撃が走り、男の意識は落ちて行った。


――――――――――――――


 「とりあえず、こいつをどうしようか。」


 俺はエレナに隠蔽魔術をかけてもらい、賊の後ろに回り込んで気絶させた。


 「皆さん、大丈夫ですか?」


 「は、はい。今のところここにはけが人はいません。」


 シルは生徒会の被害状況を聞いている。


 聞こえてくる感じ、大丈夫そうだな。


 「水ない?水。」


 俺の突拍子のない発言に、皆首をかしげる。


 「何に使うんでしょうか?」


 「こいつを起こす。

 それだけだよ。」


 「なら、僕が出します。

 『蒼き水を此処に』【ジェネレートウォーター】」


 役員の一人が水を出し、近くにあった容器に入れる。


 「ありがとな。」


 「あ、はい。」


 少し怯えてるなあ。やっぱり、通信機のアレ、聞いてたのかな?


 俺は考えつつ、賊に水を思いっきり被せる。


 「げほっ、ごほっ。」


 賊はすぐに目を覚ます。


 「よし。聞きたいことがある。」


 「てめえか?メリーってやつは。」


 「違う。」


 「じゃあ、お前は誰だよ。」


 「教える義理もない。」


 「じゃあ、お前の質問に答える義理もないな。」


 賊は威勢よく、言い放つが、俺はそいつの腹に思いっ切り腹を蹴った。

 のたうち回る賊に俺は言う。


 「立場を理解しろ。

 次、同じようなことを言ったら、もしくは、嘘を吐いたら、分かるよな?」


 「ひ、ひぃっ、わ、分かった。答える、答えるから。」


 こんなんで話す気になるのか?ドラマとか、もっと耐えてるイメージなんだけど。

 まあ、いいか。


 「お前たちの依頼主は誰だ?」


 「な!?何故それを!?」


 「誰だ?」


 俺は答えを言わない賊に圧をかける。


 「し、知らないんだ。

 唯一分かってることは、この学校の貴族ってことだけだ。」


 俺の推理通りか。


 「依頼内容は?」


 「この学校を襲撃して、顔の良い平民の女を見繕って、依頼主に渡すことだ。」


 嘘は言っていない。

 でも、言葉が足りていない。


 「まだ、あるよな?」


 「は、はい。

 その時、すぐに使えるようにその女たちの処女を散らせろ。です。」


 ここまでは想像通り。


 「てことは、ほかの場所で何人か犯されてるのか?」


 「ま、まだだ。」


 これは嘘だろう。


 「さっきの男は犯そうとしてたぞ。」


 「さっきの奴って学長室にいた奴の事か?」


 「そうだ。」


 「あいつは、俺たちのグループで実力がある方の奴で、実力の割に頭が悪いから、細かい作戦行動をとれないんだ。」


 そんな奴を、編成するなよ。


 だが、それなら、さっきの言い分が通るな。


 「じゃあ、どうやって犯すつもりだったんだ?」


 「俺たちは依頼主に、平民の無力さを、身に沁みさせてやれ、と言われていた。」


 なんとなく想像つくが聞くとしよう。


 「顔が良いって事は、少なからず好意を寄せるやつもいるってことだ。」


 「で?」


 「それで、全校生徒の前で犯してやればいい。」


 話を分かりやすくするとこうだ。


 平民視点で、

 好きな子が捕らわれる→好きな子が犯されてる→少しずつその子が快楽に墜ちていく→平民が絶望する。


 完全な、脳破壊系展開寝取りをすれば平民の無力さを思い知らせるという事だ。


 全くもって気色悪い。


 「でも、それはあんまり効果ないと思うぞ。」


 「何故?」


 「だってこの学校の男子生徒は、貴族にしか興味ないもん。」


 「は?」


 「だから、言ってんじゃん。

 碌に調べもせずに変な作戦を立てるから、こうなるんだよ。」


 「ふっざけんな!」


 俺はまた蹴りを入れる。


 「次は睾丸行くぞー。」


 賊は悶絶しながら、押し黙る。


 俺は賊を身動きが取れないように、これでもかと縛り付ける。


 「お前たちの頭はここにいるのか?」


 「ああ、だが、お前じゃ勝てないよ。

 なんてったって、あの人は王国騎士団すらぶっ殺した、すげぇ人なんだから。」


 そんな、フラグみたいなことを。


 「お前がどう考えようが知ったこっちゃない。

 聞けたいことも聞けたし、寝てろ。」


 俺は賊に腹パンして、気絶させた。


 「シル!」


 「なーに?」


 シルは俺の考えを見透かしたように聞いてくる。


 「被害者性被害者が出る前に片づけるぞ。」


 「分かってるよ。

 だって、克己だもんね。」

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