第24話 爆弾

 「もう大丈夫ですの?」


 賊が逃げた後、おずおずと茂みから出てくる。


 「終わったと思う。周囲に敵意はいないから。」


 「そう…ですの?

 ところで二人ともお名前はなんというので?」


 「えっと…アリスです。」


 「イリスだよー。」


 引っ込み思案な子がアリス、元気な子がイリス。


 この世界の名前、ら行多くない?


 「あの…本当に助けてくれてありがとうございます。」


 俺がこの世界の名前について考えているとアリスがお礼を言ってくる。


 「どういたしまして。二人とも本当に大丈夫?」


 「大丈夫だよー。カツミくんが助けてくれたから。

 ほら、怪我一つない。」


 「そうじゃなくて精神的な話をだな…。」


 「カツミ、大丈夫ですわよ。ここまで話せるのならイリスさんは大丈夫ですわよ。」


 ウェンディが俺の言葉を遮って言ってくる。


 だとしてもアリスが大丈夫じゃないかもしれないだろ。

 明らかに気が弱いだろ、この子。


 「イリスは大丈夫っぽいけど、アリスはどうなの?」


 「あの…はい…大丈夫…です。」


 アリスが少し怯えるように答える。


 大丈夫なのかなあ?


 あ。


 「もしかして俺の事怖い?」


 「い、いえ…。そういうわけでは…。」


 やべえ。余計怯えちまった。


 「大丈夫ですわよ。カツミは先ほどの賊のような下衆な考えはしておりませんわ。」


 微妙な雰囲気をいち早く察したウェンディが俺をフォローしようとする。


 「そうだよ、アリス。さっきの人たちみたいな人だったら、私たち今頃純潔を散らしてたところだよ。」


 イリスもフォローしてくる。


 これはフォローか?


 「そう…ですね。恩人ですもんね。いい人ですよね。」


 すっごい自分に言い聞かせてる。傷つくなあ。


 「なあ、ウェンディ。」


 「なんですの?」


 「俺って怖い?」


 「怖くないですわ。むしろ自堕落なクズ…。」


 「おい、さすがの俺でもキレるぞ。」


 そんな俺たちのやり取りを見てアリスとイリスは驚いている。


 「あの、二人は付き合っているんですか?」


 アリス、君はなんてことを言うんだ。

 ほら、ウェンディが顔を真っ赤にして怒ってるよ。


 「そ、そ、そんなことはないですわ。こんな男と付き合うくらいならまだ縁談を受け入れた方がマシですわ。」


 ふっ。さすがの俺でも傷つくぜ。


 「そ、そうなんだあ。

 じゃあ私たちが狙っても良いってことだよね?」


 ?イリスは何を言ってるんだ?


 「だって、カツミくんって結構人気なんだよ。」


 「何故に?」


 「だって、傲慢な貴族の人たちと違って優しいから。」


 優しい?俺が?


 なんの冗談だろうか?


 するとアリスが説明する。


 「あの、平民の女の子たちは皆男の人に相手にされないんです。その、相手が貴族じゃないと贅沢できないから。」


 「そうだねー。平民の男は玉の輿狙いで、貴族の男は平民を蔑んでる。」


 イリスも乗っかってきた。


 「そうですわね。本当にろくな殿方はいらっしゃいませんの。」


 なんかウェンディも参加してきた。

 お前、その貴族だろ。


 「その点カツミくんは相手が誰でも受け答えしてくれるし、気遣ってもくれる。」


 「平民の子たちから人気なんだよ。」


 「俺そんな素振り見せてもらったこと無いんだけど。」


 「当然ですよ。だって気になる男の人と話すって、恥ずかしいですし。」


 う…そ…だろ。

 浮いてたわけじゃなかったってことか?


 「でもカツミは結婚してますわよ。」


 「「え!?」」


 俺が絶句しているとウェンディが爆弾を投下する。


 「えっと…。それは誰と?」


 「あなた達も知ってるでしょう?シルとエレナですわ。」


 「「ええええええええ!?」」


 二人共驚きすぎだと思う。


 「シルさんとエレナさんって、あの学園の二大美女の二人が?」


 「そんな、カツミくんがすでにけっ…こん?」


 「なんか悪いな。二人とも。」


 「あの。三人はいつから?」


 「入学する半年前かな?」


 「出会いは?」


 アリスとイリスが食いついてくるなあ。

 というか恋バナに食いついてるだけじゃね?


 俺は年頃の女子ってこんな感じなのか?と思いつつシルとエレナとの出会いについて語ろうとする。


 「エレナは修業していた時の下宿先で出会った。」


 「じゃあシルさんは?」


 「奴隷商。」


 「「え?」」


 そりゃあ、驚くよなあ。


 「カツミ!どういうことですの!」


 ここでウェンディが突っかかってきた。


 「どういう事も何も、俺とシルが出会ったのは奴隷商だよ。」


 「あなたが無理やり関係を迫って、自分から離れないように拘束してるんですわね。」


 被害妄想がひどいぞウェンディよ。


 「とっくに奴隷紋は解除してる。シルが逃げたいと思ったのなら逃げる機会なんていくらでもあったぞ。」


 「それは…、あなたの体無しでは生きていけないくらいに犯したのでしょう。そうに違いないですわ。」


 しねえよ。どこのエロゲだよ。


 「ウェンディ、怒るぞ。」


 「ひっ…。」


 俺が威圧するとウェンディはかなり怯える。

 少しやりすぎたかな?


 「お前はシルのあの顔を見て俺が強引に迫ったと思うか?」


 「それは…。」


 「それに俺は嫌がる異性を犯すなんて趣味はない。

 そんなの気分が悪いだけで興奮する奴の気が知れない。」


 「そう…ですわね。」


 「そんなことより、俺の事全く信用されてなくて泣きそうなんだけど。」


 「うう…。すいませんですわ。」


 素直に謝るウェンディ。


 まあ、大事な幼馴染のことになると後先考えなくなるタイプなんだろう。

 いい娘じゃないか。


 俺たちが言い合ってるとアリスが困ったように話しかけてくる。


 「あのー。二人だけの世界に入ってるとこ悪いんだけど、カツミくんはシルさんと奴隷商で会ったってことでいいんだよね?」


 「まあ、間違ってはないな。」


 「でも無理やり迫ったわけじゃない?」


 「まあそうだけど。なんで疑問詞系?」 


 「よかったあ。」


 なにが?


 「カツミくんが関係を迫るようなクズじゃなくてッてことだよ。」


 きょとんとしてる俺にイリスが説明する。


 あー、そういう事ね。


 「そろそろ戻りませんの?時間もかなり立っていると思うのでしてよ。」


 …。

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