第22話 実践訓練

 「んー。終わったー。」


 退屈な授業が終わり俺は思いっきり伸びをする。


 試験の日から特に何の問題もなく二週間が経過した。


 相変わらず勉強のレベルが低い。最近になって分数が出てきたレベルだ。


 そんな授業寝てしまえばいいと思うが、ただでさえ普通にやっても満点を取ってしまうのに授業中寝ていたら、『授業を一切聞いてないのに満点取ってるやつがいる。』と目立ってしまう。


 だから、満点取っても大丈夫なように授業を聞いてはいる。

 しかし、そんなんじゃ足りない。

 興味のない授業を初めて知ったことかのように興味津々の顔で一つ一つ楽しそうに受けなければならない。

 ここまでやって何とかなるレベルだろう。これはある種の拷問だ。

 今ならコ〇ンの苦労が分かる。


 ちなみに俺は見事にクラスで浮いている。


 何故かって?試験であんな大声出せば皆近寄ってこない。もはや自明だ。


 エレナとシル?

 なんかいつも二人でいるしあの容姿だから学園の二大美女とか言われて、ファンクラブも出来たらしい。

 正直気持ち悪い。


 一応このクラスにもクラスの輪に馴染めない奴は何人かいる。


 金がないけど奨学制度で何とか入った平民とかがいい例だ。


 「相変わらずこのクラスに馴染めないのですわね。カツミ。」


 俺が物思いにふけっていると不意に声を掛けられる。


 こんな俺に話しかけてくるやつは数えるほどしかいない。


 「お前も人の事言えないだろウェンディ。」


 彼女も輪に馴染めないタイプだった。


 「五月蠅いですわね。それよりも聞きました?次の授業は二人組を作って魔物討伐の実践訓練だそうですわよ。」


 ウェンディがチラチラとこちらを見てくる。

 ああそういう事か。組む相手がいないから組んでほしい。でも、自分から言うのはプライドが。みたいな感じか。

 相変わらず難儀な性格だ。


 「じゃあ一緒に組まないか?クラスのあぶれ組二人で。」


 「っ…。仕方ないですわね。可哀そうなあなたとペアになってあげますわよ。」


 そう言うとウェンディは自分の席に戻って行く。


 いや、すぐに出発だから席に座っても意味ないと思うよ。


 シルとエレナは二人でペアを組むことが決まったらしい。


 ちなみに俺たちが結婚していることは隠してる。

 当たり前だろ?二人のファンに知れたら殺されるわ。


 だからといって二人との関係を疎かにしてるわけじゃない。ちゃんと放課後とか夜は一緒に過ごしてる。

 もちろん性的な意味は含まれない。

 この世界にはそんな薄いゴムを作る技術も薬を作る技術もない。

 要するに避妊の方法が無い。

 邪神との戦いを控えているのに子供が出来たら大変だ。


 これが俺の今の現状だ。


 「じゃあ課外授業始めるから外に行くぞー。」


 こうして俺たちの初めての課外授業が始まった。


―――――――――――――――


 「えー。これから課外授業を始める。」


 俺たちは学園からかなり歩いたところにある。森に来ていた。


 森にはあまりいい思い出が無いな。

 龍人の襲来とか。


 あとは龍人の襲来とか。


 あとは龍人の…。


 「今回の課外授業は聞いていると思うが、魔物討伐の実践だ。

 そこまで強力な魔物はこの森には生息していない。だが、あまり無理はするなよ。一昨年、無理に討伐しようとしたのが原因で死亡した、という例がある。

 気をつけろよー。」


 「先生、この森はそんなに強い魔物は出てこないぜー。」


 「そうそう。首席のマモン様にかかれば余裕ですよ。」


 違う。首席は俺だ。


 マモンという男の名はマモン=ブローカ。

 学園の代表が首席というのが今までの通例だったため。学園代表のマモンを首席と学校の人たちが勘違いし、彼を褒めたたえている。

 だから、克己を差し置いて首席を名乗っている。


 要は馬鹿なんだよなあ。あいつ。嘘がバレた時どうなんだろうな。


 マモンの嘘が通るのはいまだテストが行われていないから首席が誰かは知る方法が無いからしょうがないとはいえる。


 「そうやって油断してると足元すくわれるからな。」


 先生がマモンたちに釘を刺す。

 だがマモンたちはあまり聞き入れていない。


 「じゃあ説明は以上だからこれから実践訓練を始める。」


 こうして俺たちの初めての実践訓練が始まった。


―――――――――――――――


 「やあ!」


 ウェンディが狼を斬る。だが致命傷は与えられない。


 「らあっ!」


 俺が前に出てとどめをさす。


 殺したら売れるところだけ地面に埋める。


 「手慣れてるんですわね。」


 「まあな。ちょっとやってたから。」


 「羨ましいですわね。」


 「何が?」


 「剣の腕前ですわよ。

 私は昔から剣の才能はあったのに体質のせいで技術に体が追い付かないんですの。」


 聞けばウェンディは筋肉が付きづらい体質らしい。


 「勘違いすると悪いから言っておくけど、男の方が筋肉が付きやすいのは生物として普通のことだぞ。」


 「どういうことですの?」


 「人生の全てに鍛えることを全振りしてるんだったら話は別だけど、男は、特に思春期は筋肉が付きやすいんだ。」


 「し…しゅん…き?」


 「思春期ってのは俺たちみたいな年頃の人たちだよ。」


 「初めて聞いた言葉ですわ。男の人が筋肉が付きやすいということは分かりましたの。では女の人はどうなのですの?」


 「逆に女は、特に思春期は、筋肉より脂肪の方が付きやすい傾向がある。」


 「な、何故ですの?」


 「子供を産む。出産のためにそういう事になるらしい。」


 「そ、そんな…。じゃあ、私は強くなれないんですの?」


 「いや、そういう事じゃない。男でも弱い奴は弱い。女も強い奴は強い。

 要は、個人のやり方次第。筋肉が付きづらいならそれに合ったやり方をすればいい。」


 俺の言葉にウェンディは驚いたみたいだ。


 「私に剣をやめろとは言わないんですの?」


 「ん?なんでだ?」


 「家の人達は剣をやめて花嫁修業でもしなさいと言われてきたんですの。女は家庭を守るものだ。って。」


 ウェンディもそれなりに自分の夢で苦労してきたんだろう。


 「なら俺が剣の相手になろうか?教えられることは少ないだろうけど。」


 「それは魅力的な提案ですわね。是非お願いしたいですわ。」


 珍しい。ウェンディが嫌みの一つも言わずに俺に頼み事をするとは。


 「なんですの?その顔は?」


 おっと。顔に出てたらしい。


 「何でもない。何でもない。」


 「何でもない表情じゃないですわよ。」


 「それよりもキリが良いから戻らないか?

 結構な時間やってるぞ。」


 体感だけど三時間は絶対にやってる。


 …………………………腕時計ほしいなあ。


 ウェンディも十分だと考えたのか戻る準備をしている。


 「そうですわね。頃合いでしょうし、あまり遅いと先生方が心配しますわよね。」


 「そうだな。まあ問題も何も起きなかった訳だし遅くても大丈夫でしょ。


 「きゃあああああああ。」


 「「……。」」


 俺たちが戻ろうとした瞬間、耳をつんざくような悲鳴があたりに響いた。


 「なあ、ウェンディ。」


 「なんですの?」


 「問題が起きなかったとか言った奴は誰だ?」


 「あなたでしょう。」


 ウェンディが呆れたように言う。


 「どうする?」


 「何をですの?」


 「今の悲鳴。様子を見た方が良いよな?」


 「そうですわね。行きましょう。」


―――――――――――――――


 二人の女子生徒が複数の男に囲まれていた。


 「頭、こいつら本当に貴族じゃないんですね?」


 「ああ、こいつらは学園にいるだけの平民だ。何しても雇い主がもみ消してくれる。」


 女生徒を囲んでいる男のうちの二人がそんなことを言うと、女生徒たちはこれ以上ないくらいに怯えている。


 「い、いや。何するつもりなの?」


 「あ?お前らを拉致して犯すんだよ。」


 「ひっ…。や、やめて。」


 「嫌…嫌だ。」


 そう怯える女生徒にお構いなく近づいてくる。


 「おら、怯えろ、怖がれ。嫌がる女を犯すのは最高だからな。」


 そう言うと男は女生徒の腕を掴み連れて行こうとする。


 「いや…。」


 その時、女生徒を掴んでいた腕が宙に浮かび、男から赤い華が咲いた。


 同時にこの世界ではあまり見られない片刃の剣を持った男が現れた。


 「大丈夫か?」


 男がそう問いかけてくるが女生徒たちは何が起きたか全く理解できなった。

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