第21話 ウェンディ=ジューナク
試験日の翌日。
俺たち三人は合否の確認のために学園の昇降口前の掲示板のところに来ていた。
「あー。結果見たくない。帰りたい。」
「駄目だよ克己。結果は受け入れないと。」
「だってこの学園後で聞いたら倍率クソみたいに高いじゃん。」
このアルザミア学園は物凄く人気らしく。毎年の競争率がえげつないことでも有名だった。
ちなみに今年の倍率は三十倍だそうだ。
「俺がこんなに上品な学校受かるわけないだろ。テストもろくに解けなかったんだから。」
「まだ言うんだね。もしかしたら合格してるかもよ。」
エレナ…。やめてくれ。そんなことはありえないんだ。こんな人気の学園があんなクソ問題で終わるはずがない。
俺が内心辟易としていると、不意に話しかけられる。
「あら?あなた確か試験中に奇声を発した方じゃないですの。」
おっと、不名誉な認識をされているようだ。
「そんな不名誉な呼ばれ方をされるほどあんたとは深い関係じゃないと思うんだけど。」
誰?と思いつつ、声の主に顔を向けると、
「誰?」
いや、顔を向けても分からなかったわ。
醤油をこぼしたら落ちなさそうなくらいの純白の髪、男子より頭一つ分くらい低い身長。巨乳でも貧乳でもない、美乳。
俺はこんな奴知らない。
俺がこの人が誰か考えていると隣から声が上がる。
「え?ウェンディ?ウェンディなの?」
「あなたは…………シルですか!?そんなまさか。だってあなたの家は。」
「取り壊しになっちゃったもんね。」
なぜかしんみりとした雰囲気が流れる。話を変えようとウェンディに話しかける。
「えーと…。ウェンディさん?シルとはどういう関係なの?」
「ウェンディでいいですわ。私とシルは幼馴染ですの。小さいころから家同士の交流があったでしてよ。」
へー。シルの幼馴染ねー。
え?家同士の交流?もしかして?
「もしかしてウェンディって貴族?」
「失礼ですわねあなた。私はウェンディ=ジューナク。
れっきとした貴族ですわ。あなたこそシルのなんなんですの?」
「シルは俺n「克己は私の旦那さまだよ。」
俺が放そうとした瞬間シルがさえぎって嬉々として俺との関係を話した。
「旦那さま?もしかしてシル、あなた結婚したの?」
「そうだよ。」
シルの結婚に相当驚いたのかそれはもう凄い目を見開いてる。
「あの誰とも浮いた話が浮かんでこないシルが結婚?」
そして俺の顔を見て一言。
「こんな頭のおかしくて、自堕落そうで自分の実力をはき違えているような奴と?
何かの間違いですわ。シルは騙されてる。いや脅されてるのかも。」
「おい。流石の俺でも引っ叩くぞ。」
「そんなありえない。あんなに純粋で無垢だったのに結婚なんて。」
よほど受け入れられないらしい。
そんな中エレナが困惑したように輪の中に入ってくる。
「あのー。そろそろカツミの合否を確認しない?」
そうだ俺はここに合否を見に来たんだ。決してお嬢様に絡まれるためじゃないんだ。
「まだ結果を見ていなかったんですの?」
「ああ。色々あってな。
ウェンディはどうだったんだ?」
「もちろん合格でしたわよ。467点で。」
そう俺が掲示板を見たくない理由は点数が張り出されることだ。俺はそれをさらされるのがとてつもなく嫌だ。
ちなみにフルスコアは600点だ。
「しょうがないですわね。早く見に行きますわよ。」
「なんでお前が仕切ってんだよ。」俺はその言葉をそっと飲み込む。
俺たちは一位から番号を見ていこうという話になった。
この掲示板意地の悪いことに点数順に貼られている。番号順に貼れよ。
一位はフルスコアの600点で後で職員室に来てほしいという文言まであった。
受験番号は221456だ。
「カツミの受験番号ってどれ?」
「ん?えーとね。221456。」
全員が静まり返った。
あれ?この番号ついさっき見たような?
静寂を破るかのようにウェンディが絶叫した。
「はあああああ?あなたのような方がフルスコアですって?しかも一位ということは首席?
ありえないですわ。あなたカンニングしたでしょう?」
ウェンディがとんでもないことを言い放つ。
「ふっざけんな!カンニングなんかしてねえよ!
あんな簡単な問題フルスコアじゃないとおかしいだろ。」
「簡単ですって!?私はこの学園に入るために必死に勉強してきたんですのよ!」
俺とウェンディが言い合ってるとシルが袖を引っ張ってきた。
「(そんなに試験簡単だったの?)」
「(ああ、本当に四則演算だけで、俺たちの世界なら小二修了時点で全員解けると思う。)」
「(うわあ。それは満点になっちゃうよ。)」
ウェンディはカンニングを疑い、シルは俺に同情。
エレナはというと。
「すごいよカツミ!フルスコアなんて。しかもこんな名門校の試験で。」
すっっっごい、驚くくらい尊敬の眼差しを向けてくる。
言えないよなあ、こんなの俺らの世界なら誰でも解けるって。
ていうかこの世界の人はあの問題で必死に勉強しないといけないのか?
俺はこの世界の未来が心配だよ。
「あ、そうだ。一位の人は話があるみたいだから入学手続きついでに職員室寄ってくるから先に寮に戻ってて良いよ。」
「分かった。じゃあまた明日。」
「カツミ気を付けてね。」
「え?二人は手続きしないんですの?」
「シルとエレナは試験免除なんだよ。」
「そういう事ですのね。では二人ともごきげんよう。」
そう言って二人とは別れたが、
「なんで一緒に来るの?」
「あら?駄目ですの?これからの学友と親交を深めようというのに。」
「アーハイハイソウデスネ。」
俺は入学手続きを終えて呼び出しを受けた。
だだっ広い部屋で待つように指示され待機しているわけだが。
「だからなんでいるんだよ。」
「良いでしょう?どうせ帰る場所は寮なので同じなのですし。挙句の果てに隣でしょう?
一緒に帰ってあげますわ。」
「お前…。」
「どうですの?感謝してくれてもいいんですのよ?」
「友達いないだろ。」
俺の言葉にウェンディはさっきまでの勢いがなくなる。
「な、な、なんてことを言うんですの?私に友人がいないわけ…。」
キョドってるし図星なんだろう。
かわいそうなのでこれ以上は触れないであげよう。
そんなやり取りをしているとコンコンとドアがノックされ開かれる。
男が入ってきた。
「初めまして。私はユーゲル=ナクム。この学園の学園長をさせてもらっています。」
ユーゲルと名乗る男は「では早速。」と言いながら俺に頭を下げた。
「この度は合格おめでとうございます。」
「それはどうも。」
「つきましては成績一位のあなたに学園代表として学園の顔になってほしいのですが。」
その頼みの答えはもう決まってる。
「お断りします。」
学園長はまさか断られると思っていなかったのか若干戸惑ってる。
「何故でしょうか?この学園の顔ともなれば国からも支援を頂けるかもしれないんですよ。」
「それでもお断りします。」
「何故か聞いて良いでしょうか?」
「理由はいっぱいありますけど、一番の理由は普通の学園生活を送りたいからですかね。
なのでできれば俺が首席ということも隠してくれるとありがたいです。」
「別に代表でも普通の学園生活は送ることが出来ます。これまでの学園の試験でフルスコアを取った人なんて聞いたことがありません。そんな人が代表になれば「いい加減にしてくださいまし!」
学長の話を遮るようにウェンディが声を荒げた。
「あなたは?」
「さっきから聞いていればあなたは学園のためにカツミの名前が欲しいだけなのでしょう?何もカツミの意見を聞いていないじゃないの。それは上に立つ者としてあるまじき行為ですわ。」
「しかし…。」
「カツミは代表はおろか首席であることも嫌なんですわよ。代表なんてほかの目立ちたがり屋にやらせれば良いでしょう?
貴族たちは皆目立ちたがり屋ばかりなのですから。」
「ですが、私たちにとってもカツミさんが代表になってくれた方がありがたいのです。」
「あなたまだそんなことを…。」
「いいよウェンディ。」
俺はウェンディを制止する。
「だけどここにカツミの意見が無いのですのよ?」
「それでもいい。俺は自分の意志で話すよ。」
「では受けてもらえるのですね?」
「いや、受けません。
代表はほかの人にやってもらってください。二位の人も点数自体は悪くなかったはずです。」
「しかし、一位でないと意味が…。」
それは何故だ?
何故点数にこだわる?
俺は少し考えるそうすると案外すぐに答えが出た。
「一位でその学校の今年の出来とやらを他校と争ってるんじゃないか?」
ビクッと学長が反応する。
「やっぱりか。あんたそれでいいのか?確かに学園を運営するうえで金が必要になる。ならその費用は?って聞かれたら生徒たちからの授業料金とかだもんな。」
「はい。そうです。運営には金が必要で必然的に生徒の数も適度でなくてはならない。それを維持するには他学園よりいい成績を持つ生徒をアピールして学園の質を上げるしかない。」
「でも今現在他学園も成績が伸びてきていてこちらも二位を出しても勝てるか分からないと?」
「その通りなんです。だから私たちを助けるつもりで代表に。」
「俺さっき言ったよね?それでいいの?って。」
「それでいいとは?」
「学園のためとはいえ生徒を見世物に、出しにして。それでいいのか?」
「それは…。」
学長が言い淀む。
あまり生徒を出しにしている自覚は無かったのだろう。
「俺の知り合いはこの学校の制服がいいからここに行きたいと言っていたぞ。」
「え?」
「ほかの学園に行くやつも少なからず何かの魅力を見つけてここじゃない学園に行ったんだろう。」
「何が言いたいんですか?」
「今、あんた達教員が考えるのはこの学校の生徒の質じゃないだろう?ここで青春を過ごす若者たちをどう迎え入れ快適な環境で学ばせるかだろう?」
「しかしそれでは新入生が…。」
「あの学校の雰囲気が良い。それだけが広まれば勝手に人はやってくる。人間だれしも窮屈で退屈な生活なんか送りたくないんだよ。」
学長がはっとしたように息を呑んだ。
「頭いいけど退屈な学園と学力はそこそこだけど雰囲気は良い学園。どちらに行きたいか考えてみれば簡単だろう?俺だったら後者を選ぶ。」
学長は俺の言葉を最後まで聞いて少し考えている。
学長になるほどだからそこそこ頭いいんだろう。この話が理解でいない人とは思えない。
学長は何かを決心したように顔を上げた。
「私が間違っていました。学園のことを考えるのは普通の事ですが生徒の意見をないがしろにして良い理由にはならないですね。」
良かった。分かってくれたみたいだ。
「しかし、代表はあなたにやってもらいたいですね。」
前言撤回。全然わかってない。
俺が明らかに嫌そうな顔をすると学長は首を振る。
「強制はしません。やりたくないのなら他を当たることにします。」
「じゃあなんで俺にまたやらないかと?」
「当たり前でしょう。私の考えを正せるようなことを言えるあなたにやってほしいと思うのは。」
なんだかんだでいい人なんだな。
「それでも代表の話はお断りさせていただきます。」
「わかりました。ではこの話はなかったことにしましょう。」
「あ、そうだ。首席ということはできるだけ隠して欲しいんですけど。」
「わかりました。では良い学園生活を送ってください。」
俺は指定された寮に行くために立ち上がる。
「ウェンディ話が終わったから今から寮に行きたいと思うんだけど。」
そう言いながらウェンディの方を見ると。
「……………………。」
俺の方を呆けたように見ていた。
「ウェンディ?」
「はっ!?私どうして?」
ん?どうしたんだ?
「さっきも言ったけど寮の方に向かおうと思うんだけど一緒に行く?隣だったでしょ。」
「そうですわね。早く寮に行って体を休めたいですわね。」
「じゃあ行こうか。」
俺たちは部屋を出て寮の部屋に向かっていった。
「あなたどれだけ頭が良いんですの?」
「なんだ?急に?」
「普通あんなこと私たちの年齢じゃ考えられないのですよ?
平民は学ぶ機会がなく、貴族たちは甘やかされて学ぼうとしない。
そんな人たちしかいなかったから先生たちの考えを変えるようなことを言える人はいない。」
「そんなことを考えてる時点でウェンディも結構頭いいんじゃない?」
「そんなことはないですわ。これは人の上に立つ者としては知っていて当たり前のものでしてよ。
知らないのはおかしいですわ。」
ウェンディは多分頭が良いんだろう。だけどそれがもとでシルしか友人といえる存在がいないんだろうな。
「カツミはどうして代表になりたくなかったんですの?」
「何回も言ってるだろ。性に合わないんだよ。」
そう言うとウェンディはジト目でこちらを見つめてくる。
「本音は?」
「あの程度の問題を出すようなところの代表なんてヤダ。」
俺がそう言うとウェンディは笑いながら、
「ふふっ。やっぱりあなたは嫌いです。」
毒を吐いてきた。
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