第19話 桜剣エリシュトラ
エレナとシルに全て打ち明けてもう一度襲われた翌日に、俺は師匠にこれまでのことを話した。
師匠とシルヴァナは黙って聞いていた。
俺が全てを話し終えると師匠は俺に質問してきた。
「お前の目的は世界を滅ぼすことではなく救う事でいいんだな?」
「違います。」
師匠の認識には少し語弊がある。
しかし、師匠はそんな俺の胸中を知ってか知らずか続けて質問する。
「どういうことだ?」
「師匠の言う通り俺は世界を滅ぼすつもりはありません。
ただ、この世界が誰かの手によって滅ぶことになっても救うつもりはありません。俺がやるのは邪神を討つこと。ただそれだけですから。
それが結果的に世界を救う事だとしても俺は知りません。」
俺の言葉に師匠はどこか安堵したように息を吐いた。
「俺に剣を教わって何かしようと考えているのだったら、殺してでも止めるつもりだったがその必要はなさそうだな。」
一応納得してくれたらしい。
前々から思っていたが聞き分けが良すぎないか?この人。
俺はジト目で師匠を見つめる。
「最初に会った時から強い意志があったからな。反論しても押し問答になる、ってわかってたからな。」
やべ。考えてることお見通しだったっぽい。
「それはそうと、お前たち学校に行かないか?」
学校?それまた唐突な。
「学校に行ってどうするのですか?」
「カツミのいた世界ではどうだったか知らんが、この世界では学業ができないとまともな職に就けない。
それは冒険者をやるにしてもだ。」
「俺、冒険者やるなんて言ってませんけど。」
そう言うと師匠は呆れたようにため息をつく。
「はあ。お前これからのことについて何も考えてないのか?
本当にあの二人を養っていくのか?」
「なっ!?」
何故そのことを。まだ言ってないのに。
「カマかけてみたんだが当たったみたいだな。」
カマかけたのかよ。
「どうしてそう思ったんですか?」
「簡単な推理だよ。
シルがこの屋敷に来た時カツミへの好感度が異様に高かった。幼馴染だったから納得だが。こちらはすぐに結ばれるのは分かった。
エレナの方だが最初からではなかったがお前と接していくうちに淡い恋心を抱くようになっていた。そして龍人の一軒でエレナはお前にベタ惚れになった。シルの登場で焦っていたのに今日は二人で仲良くしてエレナも満たされているようだったからな。」
ちょっとここまで見られて考えられてると気持ち悪いな。
「まあ、確かに二人を自分の手で養いたい気持ちはあります。
でも、冒険者より定職に就いた方が良いのでは?」
「お前自分の目的を忘れたのか?」
師匠は驚きながら聞いてくる。
「邪神を討つことですよ。それと冒険者となんの関係が?」
「はあ。じゃあ冒険者になる利点を挙げよう。
まず一つ目は誰にも縛られないことだ。
邪神を討つ、という目的に国の邪魔は入ってほしく無いだろう。それに国に仕えているとお前が転生者とバレる可能性も出てくる。
そして二つ目、カツミ自身の腕なら簡単に稼げる。これからやるスキル鑑定の結果によってはシル達も戦力になりうる。」
そう言われるとそちらの方が良いような気がしてきた。
「それなら冒険者の方が色々便利かもしれないですね。」
「まあどの道どの職業に就くにしても結局学校には行かないといけないから行く以外の選択肢なんて無いんだけどね。」
そういえば、と影が薄くなりつつあるシルに小声で話しかける。
「なあシル、この世界の学校のレベルってどのくらいなんだ?」
「私も行ってたわけじゃないから知らないけど、少なくとも歴史、道徳、識字、数学はやるよ。」
「うわ。数学もこの世界でやらなきゃいけないのかよ。」
正直歴史はどうとでもなる。屋敷の書斎で色々見たからな。
ただ俺は数学だけは無理なんだ。
俺が苦い顔をしてるとシルは大丈夫だよ。と言ってきた。
「数学って言ってもベクトルとか因数分解とかじゃなくて一般的に使う簡単な四則演算だよ。
正直私たちの世界の人なら小学生でも解けるくらいかな。」
なんだろう安心して良いんだろうけど、この世界の未来が心配になってきた。
「ところで克己。さっき私たちを養いたいって…。」
「それは掘り返さなくていい。」
シルは頬を赤くさせながらもニヤニヤしてる。
そんな中に師匠は割って入って話を続ける。
「学校への入学は手配はやっておこう。エレナの分もな。」
すると、エレナが「え?」と呆けたようにしている。
「当たり前だろう。もうエレナは私の屋敷のメイドではない。カツミの嫁なんだろう?」
エレナはみるみるうちに顔を赤くさせ「カツミのお嫁さん。」などとつぶやいている。
「あとはこの屋敷を出るにあたってカツミ、シル、エレナのスキル鑑定とカツミの剣技習得の儀式を行う。」
―――――――――――――――――
俺たちのスキル鑑定は割とすぐ終わった。
シルのスキルは再生術と蘇生術。
エレナは大魔導士と料理スキル。
この世界では戦いのスキルとそうでないスキルがありそれによってつく仕事が大体決まるらしい。
エレナみたいにハイブリッドは中々いないらしい。
エレナが師匠に「このスキルで毎日カツミにご飯を作れるな。」と言われ顔を真っ赤にしていた。
俺?なんか文字化けしてて何も分からなかった。
まあ、スキルは知ってるけどね。
赤猫眼と獄門術。
かなり強力なスキルだ。鑑定ですら認識できないスキルならあまり大っぴらにさらすものではないだろう。
そんなこんなあったが今は染式流の剣技習得の儀だ。
染式流はほかの剣技と違い剣に術を乗せる流派である。
基礎は同じでも同じ剣技は生まれない特殊な流派だ。
剣技が一人一人違うので剣は儀式の中でこの四角い鉄の塊が変形してできるらしい。
「それじゃあ、儀式を始めるよ。」
「はい師匠。」
師匠は俺に剣に何を乗せるかとか剣に求める最低限の条件を思い浮かべろと言われた。
剣に最低限必要な条件か…。
なら俺の加速した状態に耐えられるほどしなやかで硬質かな。
とりあえず剣に求めるものは決まった。後は何を乗せるか。
俺は集中する。何を乗せるか考えるために何をするのか考える。
邪神を討つ?違う、それは俺が求めるものの経過に過ぎない。
俺がしたかったことは…。
ふと周りを見るとシルが目に入る。
そうだ俺は華怜に会うために、華怜を守りたいと、そう思ってここまで来た。
「ねえねえ克己。桜って好き?」
俺の過去を思い出す。
「私は好きだよ。咲いている期間はとっても短くてすぐ散ってしまう。だけどほかの花と違って一年たったらまた咲き誇る。桜はトクベツなんだよ。」
この時俺は何が言いたいのかさっぱり分からなかった。つーか今もだよ。
でも
「桜ってね、色んな種類があってその数だけ花言葉があるんだよ。純潔とか淡泊とか。
そんな色々な桜の花言葉一つ一つも好きなんだ。」
桜を語る彼女の姿、桜に見入る彼女の姿は綺麗だった。
俺は花にはなれない。
でもそれを胸に抱いて戦うくらいなら許されると思う。
俺は華怜の好きだったもので戦いたい。
そう俺が念じると鉄の塊が強く光り初めて、光が収まると一本の剣が出来ていた。
それを師匠が手に取って剣を調べ始める。
「剣の銘は…、」
師匠が答えるよりも俺はその剣の銘を言った。
「
「そうか。
しかし、なんだこの剣は?曲刀?にしては反りが無い。片刃というのも珍しい。」
不思議そうに見つめる師匠の手の中には一本の剣がそれも、
「ねえ克己、あれって…。」
「ああ。完璧に日本刀だ。」
日本刀だった。
「これがこれからのお前の剣だ。大事に扱えよ。この世に二本と無い剣だからな。」
「はい、師匠。」
こうして俺の修業は終わりを迎え、妻の二人と一緒に学校に行くことになった。
修業編~完~
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