第18話 覚悟

 「俺たちは転生者なんだ。」


 転生者はこの世界では忌み嫌われる存在であり、魔女狩りのようなものまで横行している。

 故に新たな技術の革新をもたらすことは転生者と疑われる行動であるため、この世界の文明レベルは著しく低い。

 この世界での生活がよくならないのは転生者のせいだというのが共通認識なのだ。


 そのはずなのに、


 「よかった…。」


 エレナは安堵していた。


 俺は殴られるくらいのことは覚悟していた。

 なんて言ったって、世界に嫌われているような転生者に大事な処女を捧げてしまったのだから。当然怒られると思っていた。


 しかし、現実はそうならず俺は正直面食らっていた。


 俺が戸惑っているとシルも戸惑いながらも口を開いた。


 「なんで安心できるの?私たちは転生者なんだよ。昔、この世界を破滅に導いたっていう。」


 そう言うとエレナは首を振った。


 「確かに私だけでなくこの世界の人たち皆が転生者は破滅をもたらす悪魔とか教えられていたよ。

 でもね今はそうじゃないと思ってる。

 全員が綺麗な心を持っていなくても、少なくともカツミは優しいしカッコいい。破滅をもたらす悪魔なんかじゃないってそれくらい分かるよ。だって…、」


 エレナは俺に抱き着いて目を見つめてくる。その目はどこか恍惚としている。


 「好きなんだもん。」


 その一言に救われたような気がした。


 別に誰かに追い詰められてたわけじゃない。

 だけど、ずっと怖かった。拒絶されるのが。


 でも、エレナの一言でこんなにも自分の事を好いてくれる人がいるってことが分かってたまらなく嬉しかった。


 しばらく俺がエレナと抱き合ってるとシルが不満気な顔をしだした。


 「ぶー。ずるい、エレナばっかり。」


 「ふふっ、いいでしょ、今だけなんだから。」


 苦笑いしながら二人を見てるとシルが真面目な顔をして聞いてきた。


 「会えたことが嬉しすぎて忘れてたけど、カツミってどうやってこの世界に来たの?」


 エレナが「どういうこと?」ってシルに聞いている。


 「私がこの世界に来るとき『新しい世界で人生をやり直し来る戦いのために強くなりなさい。』って言われたの。」


 「それがどうかしたのか?」


 「この話に続きがあってね、私がこの時『克己に会いたいな』って言ったら『あなたの幼馴染は招かれざるものです。新しい世界に来ることは不可能です。』って言われたの。

 ほんとは来れないはずの世界に克己はどうやって来たのかな?」


 俺はどこから話せばいいのか悩む。

 西島築城を殺したことを俺は喋るべきか。


 悩んでいるとシルが威圧を放ってきた。


 「全部話して。

 あの世界で自殺したとかじゃないよね?」


 そう怯えるように訴えてくるシルに、何に怯えてるんだ?と思いつつこれまでの全てを話す。


 復讐の末に西島築城を殺したこと。

 そこでオーディンに会った事。

 オーディンに聞かされた邪神の話。

 俺のやらなければならない事。


 全てを話した。


 エレナは静かに聞いていたが、シルは最初は怒っていたが邪神の話を聞かされるとどんどん顔が青くなっていった。

 でも最終的にはシルは怒ったような顔をしていた。


 「克己。今私はすっごい怒ってるよ。」


 「うん。顔を見ればわかるよ。」


 「なんで怒ってるか分かる?」


 「俺が西島築城を殺したことか?」


 「違うよ。むしろそれは嬉しかった。」


 殺したことについて怒っていたわけじゃない?じゃあ何に起こってるんだ?


 「なんでまた一人で背負うの?私は不安だった。邪神にこれから起こる戦いを聞かされて、また会った幼馴染は強くなってて、私何が何だか分からなかった。」


 「シル…。」


 「克己一人で背負うことは周りも不安にするんだよ。もっとわかってよ。

 私たちが転生者ってことどうせ言ってないんでしょ、克己の師匠たちに。」


 凄い剣幕で捲し立てるシルを前に俺は首を縦に振るのが精一杯だった。


 「なら、ちゃんと話をしよ。エレナが受け入れてくれたんだから大丈夫だよ。」


 「そうだな。師匠たちなら偏見の目もなく聞いてくれると思う。」


 「それはそうとして、」


 一瞬にして変わった空気にまずいと感じ逃げようするが動けない。なぜなら、


 「エレナ―!いつまでくっ付いてるの!」


 エレナがまだ俺に抱き着いていたからだ。


 「いいんだもん!カツミは二人の旦那さんだよ。私たちは対等な関係だからカツミが嫌がらない限りはセーフ!」


 「むきー!」


 この後俺から離れないエレナを引きはがしてシルが飛びついてきて、最終的に二人に襲われるというひと悶着はあった。


 そして、俺には覚悟ができた。師匠たちに打ち明ける覚悟が。

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