第16話 本物の思い
「うう…。気持ち悪い…。」
「ホントに大丈夫?」
「でも、本当に大丈夫なの?私が屋敷にお邪魔しても。」
「大丈夫だよ。俺みたいな見ず知らずのやつを受け入れてくれた人だから。分かってくれるさ。」
「そうなのかな?」
それでも
それもそうだろう。幼馴染がお世話になってるとはいえ華怜からしたら知らない人の屋敷に泊まるわけだからな。
「最悪断られたら一緒にどっか行こうよ。
気ままに暮らして俺のやることをやってって。」
「やること?」
「い…いや、何でもない。」
「そーお?」
あ、これ納得してない。
冷や汗を流しつつもシルラルク邸が見えてくる。
「あ、あそこだよ。」
俺たちはシルラルク邸に向かっていった。
―――――――――――――――
屋敷に帰るとエレナが迎えに来た。
「おかえ…り?その子は誰?」
「ただいまエレナ。ちょっと話が長くなるから中にしてもらっていいか?」
「いいわけないでしょ。ちょっと誰よその子。ただ本を買いに行っただけなのになんで女が一緒にいるの!」
エレナは捲し立てるように俺に質問をする。
「それを含めて話をするから中に入れてくれ。」
「克己いいんだよ…。歓迎されてないなら私がいなくなればいいだけだし。」
「それは良くない。俺がそういう扱いをしていないだけで一応シルは俺の奴隷だからな。
勝手は許さないからな。」
ここで俺は自分の失言に気づく。
(まずい。この世界での奴隷は一つしか無いんだった。この発言だけ聞かれたら俺ってやばいんじゃね?)
「そん…な。カツミが奴隷を?なん…で。私じゃダメなの?」
最後の方は聞き取れなかったがエレナはかなり驚いてる。
なんで泣きそうになってるの?
俺が困っているとそこに師匠がやってくる。
「おー。カツミじゃないか。おかえりー。
ん?そこの子は誰?」
「し…師匠こいつは…。」
「いやカツミじゃない。お嬢さん名前は?」
「わ…私ですか?シル=エルカートです。」
シルがそう言うと師匠は目を見開いて驚いてる。
「とりあえず中に入れ、話はそのあとだ。」
「ですがヨーマ様こんな見ず知らずの女を屋敷になんて。」
「この屋敷は俺の物だから客は自由に選ぶ。それに見ず知らずの女ではない。」
「え?それってどういう…。」
ことですか?と聞こうとしたが師匠はもう屋敷の中にいた。
――――――――――――――
「そうかそんなことがあったのか。」
シルはこれまでに自分に起きたことを話した。
シルの家はエルカート家と言って王都では有名な領地持ちの貴族らしい。
しかし、大体半年前くらいに起きた魔獣災害によって領地に多大な被害が出て失脚したらしい。
その時に後ろ盾になってくれるはずだった貴族がシルが婚約を断ったことを理由に裏切られたらしい。
貴族が失脚し家族はバラバラになり、シルも奴隷になったらしい。
「それでカツミに買われたとそういう事でいいんだな?」
「はい。」
師匠の質問にシルは肯定で返す。
「じゃあこれからカツミの世話になるということでいいのか?」
その言葉にシルとエレナは耳を疑った。
「え?いいんですか?わた…」
「何故いいんですか?
わたしは嫌です。」
エレナは食い気味にそう主張した。
だが師匠は少しいらだったような顔をしていた。
「確かにカツミは私が住まわしている状況だが少しくらいわがままは聞き入れるべきだと思っている。今回、カツミは奴隷を買っていた。それをどうするかはカツミの自由にする。カツミの所持品はカツミが管理する。これ以上の道理はないだろう。」
「それは…そうですけど。」
「ここからはカツミに任せる。これ以上口出しするな。分かったなエレナ。」
エレナは捲し立てる師匠に気圧されるも納得はしなかったが、最後には認めざるを得なかった
俺とシルは俺の部屋に向かおうとするが師匠に呼び止められる。
「カツミ。」
「何ですか師匠?」
「まだ隠してることがあるだろう。エルカート家のご息女は異常なまでに貞操観念が固い人だった。いつも初めては好きな人に、とな。
そんな人がお前には心を許している。何故なんだ?」
「その話も確定じゃありませんが明日には話せるかもしれません。
それまで待ってくれますか?」
「彼女を抱いて何か変わるのか?」
「わかりません。だけど話せるような気がするんですよね。」
「そうやっていつまでこのやり取りを続けるんだ?」
「そうですね。じゃあ明日全部話しますよ。」
「待ってるぞ。」
そうして俺は自室に向かっていったのだった。
――――――――――――――
俺の部屋に入るとシルがトテトテと近づいてきた。
「あの人となんの話してたの?」
「まあ色々だよ。」
「もー。また隠してー。」
頬を膨らまして怒ってる風にしているシルに俺は聞いてみた。
「その、あのさ。シルってさ俺のことを…。」
「好きだよ。」
そう食い気味に言うシルはまだ続く。
「ずっと好きだった。小学校のころから。それは今も変わらない。」
「じゃあさ。いきなりこんなことを言うと、それだけを求めるように聞こえるけど言うね。」
俺も言っててかなり恥ずかしいがシルもめちゃくちゃ顔が赤くなってる。
「今夜する?」
そう言うとシルは恥ずかしさ半分嬉しさ半分といった顔をしながら答えてきた。
「うん。」
そこから俺たちはベットに移動して隣り合うように座る。
「シル…。いいかな。」
段々と顔を近づけてくる俺のしたいことが理解したのか、シルは俺に委ねるように目を閉じる。
そして、お互いの唇が重なり合い、存在を確かめあうかのようにむさぼるようなキスをした。
ガチャーン
キスをしている最中に扉の方から何かが割れる音がしてそちらを向くと、
「エレナ?何してるんだ?」
そこにはいつもと違う寝間着を着たエレナがいた。
しかし意識ここにあらずみたいな顔をしている。
「あ…。」
エレナは俺の言葉で何かが切れたかのように泣き出してしまった。
「エレ…ナ?」
もちろん意味が分からなかった。
なんでエレナが泣いてるんだ?
というか、なんでここに?
そんなことを考えてる内にエレナは走ってどこかに行ってしまう。
それを追いかけるようにシルも、
「まさかとは思ってたけど…。
克己ちょっとエレナさんと話がしたいから行ってくるね。」
と言ってどこかに行ってしまった。
もちろん俺は何が起きたかも分からずただその場に座ってるだけだった。
――――――――――――――
エレナ視点
エレナは屋敷の中を走っていた。泣きながら。
「はあ、はあ。」
走り疲れて膝から崩れ落ちていく。
「わたし馬鹿だ。」
どんなに疲れても泣くのをやめられない。
もうわかっていた。帰ってきてからわたしの入る余地なんてなくなってたことなんか。
でも嫌だった。
だって、
「好きになっちゃったんだもん。
そんな簡単に諦められないよ。」
だからカツミに振り向いてもらうために強引な手段に出ようとした。
肉体関係さえあればわたしを見てくれる。
そう思った私は媚薬入りの紅茶を持ってカツミの部屋を訪れた。
でも遅かった。
二人はもうあついキスを交わしていたから。
エレナはあまりのショックで頭が真っ白になり紅茶の入っていたカップなどを落としてしまったのだ。
別にカツミは悪くない。別に寝取られたわけじゃない。なのに、どうして、
「こんなに苦しいの?」
そうエレナは思わず吐露する。
こんなに苦しいなら好きになりたくなかった。
こんな考えが芽生えるくらいならいっそあの時死んでれば。
そんな悲壮的な考えに至るもすぐに中断される。
他の人が来てしまったから。
「ねえ、エレナさん。」
こんなところに何をしに来たのか。今夜はお楽しみだろうに。
「もしかしなくても克己のこと好きだよね?」
多分この時初めてこの女の顔をしっかり見たと思う。
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