第15話 再会
奴隷
この世界には労働奴隷は存在しない。あるのは性奴隷のみ。
過酷な労働は罪人にやらせればいいだけで労働奴隷は需要が無かったからだ。
しかし、この世界に娼館や風俗といったものは存在しない。それでも人々の性欲はパートナーがいなくても溜まる。
だからと言って見知らぬ誰かを襲うわけにはいかない。
そこで性奴隷に注目がいった。
性奴隷には没落した貴族や出自不明の人間、借金が返せなくなり体を売るしか道が無い者などがなった。
中には性奴隷に好き好んでなる者たちもいた。
性奴隷は主が快楽を得るためのものであるため、なんの技術を持たない処女は高く売れない。(童貞の方は判別の方法がなく査定基準に入らない。)
この世界での奴隷はこんな感じである。
――――――――――――――――
「久しぶりだな、華怜。」
そう言うと俺が買った奴隷は目を丸くして驚いていた。
グレーの髪色にスレンダーな体型などと前世での華怜の特徴にあまりにも酷似した容姿。極めつけは、華怜が自殺する前にしていた目と同じものだったこと。
これだけの共通点があっても同一人物かは分からない。でも反応を見る限りこの奴隷は華怜だろう。
「あなたは誰?なんで私の名前を知ってるの?」
華怜がそんなことを言ってるが今はあまり話を聞けない。購入手続きがあるからだ。
そんなこんなで店員が契約書と小さな皿を持ってきた。
「ではお客様、購入に際して契約書にサインと少量の血液をください。」
「分かった。」
俺は契約書にサインをして、隣の小さい皿に血を垂らす。
「契約書にサインをしてもらい代金を納めてもらいましたので、奴隷紋の全権をあなたに移行させます。しばしお待ちを。」
そう言うと店員は店の奥に行き、しばらくして戻ってきた。
「これで手続きは終了しました。ご購入ありがとうございました。」
その言葉を聞いて俺は華怜の手を取る。
「行くぞ。」
「はっ、はい…。」
そう言って店を後にした俺たちが来たのは宿屋の一室だった。
俺はもう一度華怜と向き合って話をしたい。したいだけなのだが…。
「わ…わたし、初めてはほんとに好きな人としたいんです。お…おねがい…ですから…。」
めっちゃ怯えられてた。
最初は俺のこと全く覚えておらず悲しくなったが、華怜たちのような転生者は十年以上この世界にいるのだ。
忘れてても無理はない。
「そんなに怯えないでくれよ。
別にヤるためにここに来たわけじゃない。」
「え…?」
華怜が驚きが混じっている顔でこちらを見てくる。
「じゃ…じゃあなんのために私をここに?」
「二人きりで華怜と話がしたかったからだよ。」
そう言うも華怜はまだ警戒の色が解けない。
「なんでその名前を知っているんですか?」
質問をしてくるが、まだ怯えている。
俺は少し落ち着いてくれるのと俺のことを思い出して欲しい気持ちで華怜を抱き寄せた。
「ひっ…。」
…。
どうやら逆効果だったらしい。
だが俺は抱いたまま話を続ける。
「華怜、ずっと会いたかった。お前が自殺して遺書で思いを伝えられた時、俺がどれだけ後悔したかわかるか?
もう一度会うためにこの世界に来て強くなってお前と再会できたのに忘れられてたのがどれだけショックか…。」
それでようやく華怜も気付いたらしい。
「もしかして克己?」
その言葉を聞いて俺は嬉しくなり華怜の耳元で囁いた。
「久しぶり、華怜。」
「うぅ…。久しぶりだね、克己…。」
その一言で来るものがあったのか華怜が泣きそうになってる。
「私ね、この世界で新しく生きようって決めたの。でもね、克己のことがずっと頭に残ってて忘れられずに婚約もずっと断ってたの。婚約さえ断ってなければ今の家族が不幸になることもなかったのに。」
華怜は苦しそうにこの世界で起きたことを話始めた。
エルカート家の娘だったこと。
四か月前の魔獣災害で家が没落してしまったこと。
家族みんなバラバラになってしまった事。
その一つ一つが痛く苦しいものだった。
でも俺には気の利いた言葉なんかかけらない。だから自分なりに思いを伝える。
「華怜…。正直俺はその苦しみを完全に理解できないかもしれない。過去に起こったことをどうにかする力はあいにく持ち合わせてない。」
「いいんだよ。克己は悪くない。全部私が悪いから。
誰にも相談せず自殺して、前世の思いを引きずって家族に迷惑かけて。
こんな私誰も助けてくれないから。」
こんな弱気な華怜を俺は何度も見てきた。だけどその顔は俺は見たくない。
「でもな。俺はこの世界に来て強くなった。誰のためだと思う?」
「そんなのっ…。分かるわけないよ。」
「ここまで言ってるんだから気付いてくれよ…。
俺は華怜、お前ともう一度会うためにこの世界に来た。この世界にいて華怜が傷ついてほしくないから強くなった。もっと昔みたいに俺を頼って甘えてくれよ。」
「克己…?」
「一生俺はお前のそばにいる。意地でもな。だから、こう遠慮せず俺のそばにいてくれ。」
俺は何を言ってるんだ?こんなのプロポーズじゃないか。
俺はちょっと恥ずかしくなるも華怜を見る。
あ、ちょっと赤くなってる。
華怜も恥ずかしいのか目線がウロウロしてる。
でも決意したように息を吐いてこちらに向き直る。
「克己はカッコいいんだよ。だから私よりいい人に出会えるかもよ。」
「俺は華怜に告白したんだぞ。華怜が特別いい人だからしたんだぞ。」
俺がそんなことを言うと華怜は顔をほころばせる。
「なら、こんな私を幸せにしてください!」
「もちろん!これからよろしくな華怜。」
「名前。」
「ん?」
「華怜って呼んでくれるのも良いけど…。自己紹介してなかったね。
私の名前はシル=エルカート。シルって呼んでほしいな。」
「じゃあシル。」
「なーに克己?」
「よろしくな。」
「うん!」
こうして俺たちは再開を果たした。
「そのね…。克己…。この後のことなんだけど…。」
「あれ?もう夕方じゃん。シル、早く乗り場に行くよ。」
「え?今日ここに泊まるんじゃ?」
「違うぞ。この宿も部屋を貸してもらっただけで泊まるだけの料金は払ってない。
それに世話になってる家で夕飯用意してもらってる。その厚意を無下にはできないよ。」
「そっか、それならしょうがないね。」
「それよりシル。さっきなんか言おうとしてなかったか?」
「ううん。何でもないよ。てっきりこの宿屋に泊まってエッチするのかと思ってたから。」
「まあ、帰ってからするつもりだったけどな。」
そう言うとシルは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
「じゃあ今夜はお楽しみだね。」
「そうだな。」
宿屋を後にした俺たちは乗り場で思いでばなしにふけっていた。
――――――――――――――
二時間とちょっとあと
「おえー…。」
「ちょっと克己大丈夫!?」
まあ乗り物酔いしたよね。
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