第9話 サブライトスピードリーヂョン
この世界でステータスは存在しない。
それ故に相手を数値で推し量れない。だが、それは相手も同じ。
それなら相手はまだ俺が加速領域内にいるとは気付いていないはず。
しかし、この眼がいつまでもつか分からない。
一撃で決めようとはせずとも早めに終わらせたい。
俺は限界まで考える。
(今考えている時間は本当ならコンマ一秒も経っていないだろうな。)
「行くぞ、龍人。」
俺が踏み込んだ瞬間地面が大きく凹むが関係ない。
間合いに入り剣で龍人を斬ろうとした時、
バキッ。
「なっ!?」
刃が当たった瞬間腹の部分からへし折れてしまった。
俺はいつまで経っても落ちない剣の刃を見て気付いた。
(そういうことか!
今俺は普通に動いていて考えが至らなかったが、ここは加速した世界。
俺が何気なく出したスピードでも周りのものは耐えられないという事か。)
通常の高校生のスイングスピードは大体100から120km/hくらい。
加速した状態ならスイングスピードは10000km/hを軽く超えてしまう。
これをやってしまうのだから剣が折れてしまうのは仕方の無いことだろう。
(剣が折れてしまって他に武器は無い。いや、あったとしても使い物にならないだろうな。
なら、)
「己の拳で戦うだけだ。」
「オマエツイテコレルノカ。オレノスピードニ。」
「当たり前だ。負けたくないんでな。」
「オマエキョウイ。セカイノキンコウノタメニコロス。」
そして戦いは始まった。
どちらも武器を持たずに殴り合いだけの勝負。
お互いの拳がぶつかり合うだけで森の木は折れ、大地にはクレーターめいたものができる。
(くっ…。同じステージに立てば何とか勝てる。そう思ったのがミスだった。
こいつ強すぎる。流石魔人の中でも最強の一角とも言われるだけのことはある。
速さは互角でも力の差がありすぎる。)
俺は龍人を相手に苦戦していた。
それも当たり前だ。確かにカツミは人より強い。だがそれは半年だけだが自分を鍛えていたからだ。
人間と龍の力を宿した魔人との差はその程度じゃ埋まらない。
(まずいっ…。
このままだと殺される。何とか態勢を整えて…。)
そう考えるも龍人はお構いなしにこちらへ攻撃を仕掛けてくる。
もちろん態勢を戻せないカツミは受け止めるほかない。
しかし、何か様子がおかしいことにカツミは気付く。
(おかしい。さっきのような殺意を感じない。
具体的には目に光が戻ったような。)
「戦える人間は殺す。もう戦いは要らない。もう、家族を見捨てさせないでくれ。」
突然龍人はカツミに話しかける。
(急にはっきり聞こえるようになったな。)
「家族を見捨てたくないってどういうことだ?」
「私は家族を見捨て、戦いが起きない世を目指した。」
「スルーかよ。その方法が人を犯し、殺すことか?」
「半分違う。能力を持つ者や戦う力を持つ者を殺す。それが一番早い。」
「だけど、さっき女は犯すとか言ってたよな。」
「長い年月を経て、私の願いは欲望に変わり、呪いに蝕まれた。」
「それがさっきの状態か。」
「そうだ。呪いに呑み込まれている間は自分で力の制御をすることが出来ない。
だから頼みがある。」
「頼み?」
「強い願いと思いを持ちし転生者よ。私を殺してくれ。」
「何故俺が転生者だと?」
「私は人間とは違う。だからそれくらいのことは分かる。
もう一度言う。私を殺してくれ。」
「今までの話の流れでなぜそうなる?」
「私は道を間違えた。呪いを帯びた時点で私は目的を達成できなくなった。
これ以上間違えないために私を殺せる可能性がある君に頼むしかないんだ。」
龍人の周りに黒い何かが纏わりつき始める。
「頼む。時間が無い。早く私を。」
「自己紹介がまだだったな。
俺は呉島克己。あんたの名前は?」
「こんな時に何を。時間が無いんだ。早くしてくれ。」
「名前。答えてくれ。
ここまで会話して名前も知らないじゃ殺したくても殺せない。」
「そう…か。
私の名前はカイノルーク。
くっ…。もうダメだ。後は頼むぞ。」
「ああ。約束は守るさ。」
「ググ…。ガ…。ガアアアアアアアア。」
カイノルークはカツミを目にした瞬間襲い掛かってくる。
だが、カツミは動かない。
なぜなら
「開門!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます