第8話 負の記憶
走る。
ただひたすら自身の主を呼ぶために。
「早くヨーマ様に伝えて助けないと。
あんなひどいことを言って謝れないなんて絶対に嫌だ。」
龍人を恐れていたとはいえ、カツミに言ってしまった事を後悔しながらエレナは走り続ける。
「きゃっ。」
かなり急いでいて足元にあまり注意が向いていないからか石に躓いて転んでしまう。
こんな小さなことでも気持ちが強くへこんでしまう。
「お姉ちゃん…。」
地面に伏せながらエレナは自分の過去を思い出す。
――――――――――――――――――――――
「ただいまー。」
「お帰り、エレナ。
なーに?今日はやけに機嫌がいいようだけど。」
「えへへー。何でもないよー。」
そう言いながらエレナは村の友達に頼まれたものを持ってある場所に向かおうとする。
「また出かけるの?」
「うん。
友達と約束してるから。」
「夕飯までに帰ってくるのよー。」
「分かった。行ってきます。」
そう言ってエレナは家を出る。
家を出るとエレナは足早に友達がいるところに向かう。
「おーい。遅いぞエレナ。」
「ごめんごめん。でも集合の十分前だよ。」
「ははっ。それもそうか。」
「もー。早く始めるよ。なんて言ったって明日はみんながお世話になってるエレナのお姉さん、シーナさんの誕生日。
サプライズパーティー本番なんだからね。」
そう。明日はエレナの姉であるシーナの誕生日。
そこでエレナやその友達は普段お世話になっているシーナにお礼としてサプライズパーティーをしよう。
という話である
「みんなシーナさんへのプレゼント考えたか?」
「もちろん。」
「当たり前だ」
みんな色々なプレゼントを持ってきている中、
「エレナはプレゼントどんなのにしたの?」
エレナのプレゼントは。
「毎日のおこずかいを貯めて買った、ネックレス。
色々なスキルが付与されてるからちょっと高かったんだ。」
「へー。スキルってどんなの?」
「そんな大したものじゃないんだよね。
疲労回復を少し早めたり、辛くなった時大切なものを思い出せるとか。」
「すごいネックレスじゃん。
シーナさん泣いて喜ぶだろうなー。」
それから会場の準備のために色々時間を取られ気付けばもう日も沈みかけていた。
「よし。今日はここまででいいかな。」
「そうだね。大人たちはこのことを知ってるとはいえ遅くなると怒るからねー。」
「作業もきりがいいし、もう帰ろう。」
みんなが変える方向で一致し帰る準備をし、全員で帰宅する。
「ただいまー。」
「お帰りー。
ご飯もうすぐできるから早く着替えてきなさい。」
「はーい。」
そういって急ぎ足で水浴びして、部屋着に着替えて食事の前に座る。
「お姉ちゃん。明日はお仕事休みなんだよね?」
「そうだよ。
誕生日だからね。特別にお休みもらったの。」
「じゃあ明日一緒に買い物行こうよ。」
そう言うとシーナは二つ返事で了解してくれた。
「じゃあ明日はいつもより豪華な料理にしようかしら。
食材選び手伝ってね。」
そんな会話をしながらエレナとシーナは食事を終え就寝した。
翌日
今日は昼食の時間より少し前の時間から出掛けていて、今は村で有名な食事処で昼食をとっている。
「んー。美味しかった。
家で作るのもいいけどたまには外食もいいわね。」
そんな感じで満足しているシーナにエレナはある提案をする。
「ねえ、お姉ちゃん。」
「何?エレナ。」
「これからキリヒさんのお店に行きたいんだけどいいかな?」
「なんで?お昼はここで食べたでしょ。」
「それは行ってからのお楽しみ。」
そう言うと足早に会計を済ませて二人はキリヒの店に向かう。
キリヒの店は今日は貸し切りになっている。
しかし、その理由を知らないのはシーナだけである。
「エレナ本当に入っていいの?
貸し切りになってるみたいなんだけど。」
「大丈夫。
さあ入って。」
シーナは若干の不安を覚えつつ店に入ると村の子供たちやその親たちがいて。
「「「「シーナさんお誕生日おめでとう!」」」
シーナの誕生日を盛大に祝ってくれた。
「え?どういうことなの。」
嬉しさと驚きで目が点になってるシーナにエレナが説明する。
「みんな日頃からお姉ちゃんにお世話になっててお礼がしたいから、秘密で誕生日パーティーを予定してました。
……もしかしてあんまり嬉しくなかった?」
エレナが不安そうに聞くとシーナは泣き出してしまった。
「嬉しくないわけないでしょ。ありがとうねエレナ。みんなもありがとう。」
そんな光景を見て会場内から
「シーナさん。泣くのが早すぎるぜ。こんなに早く泣いてたら、これからのプログラムに耐えられないぜ。」
「これからのプログラム?」
「あるに決まってんだろ。誕生日なんだから。
プレゼントがよ。」
そんなことをドヤ顔で言うやつは放っておき各々がシーナにプレゼントを渡していく。
その過程でも、この服を着てみてくれーだの、このアクセサリーをつけてくれーだので大幅に遅れたがエレナの番がやってくる。
「あのねお姉ちゃん。私からのプレゼントはこのネックレスだよ。」
「わー。綺麗。ありが…」
カンカンカンカン
と、シーナがお礼を言い終わるより早くけたましい警告音が村に響き渡る。
「敵だー!みんな逃げろー。」
エレナ達の村の人たちはそんな警告とは裏腹に敵がどんな奴なのか気になってしまった。
何せ、今までこの村を襲うなんていうもの好きは現れたことが無いからだ。
パーティー会場にいた人たちもどんどん野次馬になっていく。
「なああれじゃねえか。」
「どれだ?」
「あれだよ。あの衛兵帯に囲まれてる奴だよ。」
みんな呑気だった。
どんな敵も村の衛兵が何とかしてくれると楽観視していたから。
しかし、現実はそうではなかった。
敵は一瞬ぶれたと思ったら全然違うところにいて、衛兵たちは一瞬の間をおいてバラバラになった。
「きゃああああああああ。」
その絶叫を皮切りに村の人たちが一斉に逃げていく。
それに応じて敵も村の人たちを殺していく。
「エレナ逃げるよ。」
シーナの声掛けによって走り出すエレナだがすぐに敵に追い付かれる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
その敵が発する声は何も理解できないノイズのような声だった。
「エレナ!」
どんっ、と突き飛ばされて振り向くとシーナは敵につかまっていた。
「お姉ちゃん!」
「エレナ逃げなさい。早く。」
そう言われても唯一の家族を見捨てられないエレナは逃げようとしない。
「でもお姉ちゃんが。」
「早く逃げなさい。お姉ちゃんの言うことが聞けないの?」
「でも…」
「でもじゃないの。エレナがいても邪魔なのよ。いっつも笑顔であなたがいると私まで笑ってなきゃいけないの。正直もう、うんざり。とっとと消えてよ。」
「え?」
エレナは戸惑いを隠せない。
だって姉にそんなことを言わないし思わないと思っていたから。
だがそんなエレナにお構いなくシーナはまくしたてる。
「結局あなたは一人じゃ何もできない。能無しは邪魔なのよ。私の目の前から消えて。」
「う、うわあああああああ。」
初めて受けた姉からの拒絶に耐えられず村のみんなの死体すら気にせず走り続ける。
「これでいいのよ。」
そんなつぶやきは誰にも聴かれずシーナの意識は途切れた。
「はあはあ。
お姉ちゃんがあんなに私を嫌ってたなんて。」
「◎△$♪×¥●&%#?!」
そんな声が聞こえて振り返るとそいつはいた。
「嘘。お姉ちゃんは?」
エレナの疑問はお構いなしに敵はまっすぐ向かってくる。
死ぬ。そうエレナが直感した時、
「
あたり一帯が濃い霧に覆われ視界がふさがれる。
「しっかりつかまって。」
「え?」
霧の中で誰かにつかまれて物凄いスピードで動いている感覚をエレナは感じた。
気が付くと立派な屋敷の前にいた。
「まずは初めまして。私の名前はヨーマ=シルラルク。
君の村を襲ったのは呪われた龍族の成れの果てである
こいつらが求めるのは快楽のみだ。それは殺人もあれば性的なものもある。」
「お姉ちゃんは?どうなったの?」
「君のお姉ちゃんが捕まったのだとすれば殺されるか、犯されるかのどちらかだな。」
「そんな…。」
「君に話があるんだがいいかな?」
「話ですか?」
「ああ。
うちで働かないか?屋敷に一人メイドがいるんだが何分一人だから仕事が回らないことがあるんだ。」
エレナにはそれ以外の選択肢が無いためヨーマの提案を吞み込んだ。
それ以来シルラルク邸のメイドとしてエレナは働いていた。
――――――――――――――
「早くヨーマ様のところへ行かないと。」
姉との最後の別れを思い出しカツミともそうなるのは嫌だと思い急ぎ足になる。
(そういえば私、なんでこんなに必死なんだろう。)
エレナは最初カツミのことをよく思っていなかった。
だけど、この半年間自身の主の修業に食らいついている姿を見ているうちに、
(ああ。私は好きになってたんですね。
なら尚更死んでほしくありません。)
カツミへの思いを認識しヨーマ様のところへ向かおうとすると、
「エレナか?大丈夫か?
森からとんでもない殺気を感じるぞ。」
「ヨーマ様助けてください。龍人が現れました。」
「龍人?そういえばカツミはどうした?」
「私を逃がすために戦ってます。」
「すぐに向かうぞ。場所は?」
「案内します。」
そうしてヨーマとエレナは森の中を走る。
「ヨーマ様。」
「なんだ?」
「必ず助けてください。私はひどいことを言ってしまって、まだ謝れてないんです。それに伝えられてないこともあるんです。
それを伝えられずに死なれるなんて嫌です。」
そんなエレナの懇願に
「当たり前だ。俺はカツミの師だ。弟子を助けるのは当然だ。」
そんな会話をしている内にカツミのもとに到着する。
カツミは立ってはいたがもうボロボロだった。
「カツミっ。」
ヨーマがそう呼びかけるとカツミは振り返って、また龍人の方に向き直った。
(あいつ死ぬ気じゃないよな?)
龍人を前にしてボロボロとはいえ立っているということ自体が異様な光景ではあるが、なによりカツミと目を合わせた時ヨーマは強い違和感を抱いた。
――――――――――――――
カツミ視点
俺はもう満身創痍だった。
龍人は目で捉えきれないほどの速さで後ろに回って攻撃するを繰り返していた。
流石に動きが早すぎて勘で攻撃を防ぐには少し限界があった。
使うか、アレを。正直俺の技術が完成するまで使いたくなったが、使ってようやく同じステージだろう。
「カツミっ。」
師匠か。思ったより早かったな。屋敷への往復ってそんなに早いっけ?
師匠見ててください俺の力。これを見ても剣を教えてくれるなら教えてください。
「開...眼っ。」
俺の体感する世界が止まった。
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