第3話 邪神

 「染島華怜を追い詰めたのは西島築城ではない。」


 「は?」


 意味が分からない。

 だって実際華怜を襲って追い詰めたのは西島なんだから。


 「この段階では理解できないだろうな。ただ、実質西島築城も被害者といっても変わりないだろう。」


 「どういうことだ?」


 理解できない。意味が分からない故に俺はそう聞くしかない。


 「まず最初に知らなければならないここ四か月の転生者たちは、皆邪神によって様々な死を迎えたものたちなのだ。」


 「邪神?邪神って人に災いをもたらす神って言われてるやつのこと?」


 「大まかな意味としては合ってるが、邪神は我々のような正確な神ではない。」


 オーディンの話では邪神とは生物の悲願である不老不死に到達し、人知を超えた高位の力を持ち「我は神である。」とか言うやつのことらしい。

 

 「じゃあ、あんたの言う正確な神ってなんだ?」


 「正確な神とは生物に大きく付随する概念が高位の力を持って顕現したものである。そういった存在を円卓神と言う。」


 「ちょっと何言ってるか分からないんだけど。」


 「わかりやすく例えると、生物が生きるのに水が必要だろう。その、誰もが必要とする水という概念が強い力を持って生まれたのが水神みずがみ。みたいな感じだ。円卓神とはグループ名みたいなものだ。」


 「じゃあ戦神って時点で想像つくけど、オーディンは?」


 「戦いだよ。それも戦争だけじゃない。肉食動物が食べ物を得るため、それに対して他の動物が生きるために争うことも戦いの概念なんだ。」


 オーディンは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。名前に似合わず争いごとが嫌いなのかな?案外優しいのか?だとするとちょっと不憫だな。


 「争いはあまり好きではないが、綺麗ごとだけでは文明は発展しない。

 そこらへんは割り切ってる。そんな顔をするな。」


 顔に出てたのか気を使ってくれたらしい。


 「すいません。」


 「謝る必要はない。それよりも今回の件について詳細と命令を与える。」


 なんか最後に聞いてないことが聞こえた気がするなー。


 「命令って何?初耳なんですけど。」


 「順を追って説明する。今回の騒動の発端は先ほど説明した邪神が引き起こしたものである。邪神の目的は邪神たちの頂点を決めること。その方法に用いられたのが、ある世界を舞台に同じ世界から呼び出した人間達を戦わせるというものだ。」


 その話を聞いて俺の血の気が引いていくのが分かった。


 「てことは華怜もそんなことのために殺されて、しかも戦うのか?」


 「そうだ。」


 「無理だろ。あいつはショックから立ち直れないだろ。あいつはそんなに強くないんだよ。」


 「それをカバーするのが時間だ。」


 「時間?」


 「転生する者たちは邪神から一度説明を受ける。転生出来てうれしいと思う者もいるだろうが。大半はこの世界でやり直したことばかりでショックを受けるものが多い。故に転生は赤子から始まる。」


 「赤子から始まるって言っても。」


 「しかし、そんなことは建前だ。邪神たちは我々のような完璧な転生術を持っていない。邪神の転生は体を持っていくことが出来ず、魂を死に向かうに入れることしか出来ない。」


 だから赤子からなのか。でも、そうすると一つ疑問が浮かぶ


 「じゃあなんで死にそうな成人済みの体に入れないんだ?」


 「その世界が転生者狩りをやるような驚異的な転生者排他主義の世界で、性格が突然変わったってだけで処刑されるような世界なんだ。だから、迂闊にその世界を生きていた者たちの体を器にはできないんだよ。」


 「なんでそんな世界でやるんだよ。もっと楽な世界とかあるだろ。」


 俺は華怜がそんなに危ない世界に放り出せれたと思うと怒りが込み上げてきた。


 「その世界で自分の選んだ人間が生き残るということもステータスなんだよ。これは邪神たちのゲーム。いわば、転生者は一種の駒なんだよ。」


 「ふざけんなっ。なんでそんな奴らのために華怜は死ななきゃならなかったんだよっ。」


 俺はついに我慢の限界を迎えて叫んでしまう。だが、オーディンは少し笑いながら、


 「ここまでのこと聞いて一番最初に出た怒りが幼馴染のためのものとは。君を選んでよかったよ。」


 「選んでよかった?」


 俺はその発言への疑問に少し冷静になった。


 「そう。私は私より高位の存在である絶対神からの命を受けている。それは邪神の処刑だ。しかし我々円卓神は直接的な下界への干渉を天界規定により禁止されている。故に代行者を立てる必要があり君をそれに私が選んだのだ。」


 「それと幼馴染と何が関係あるんだよ。」


 「君が転生した後邪神を殺す以外特に口出しするつもりは無い。そして利用された転生者たちの処遇は君に任せる。これがどういう意味か分かるか?」


 「幼馴染を、華怜を救えるってことか?」


 「広い意味でそういうことになる。ただ、先ほども言ったが会える保証なんてどこにもない。」


 それでもいい。可能性があるなら。


 「私から言い渡す命令だがもうわかるよな?」


 「命令は邪神を殺せ。」


 「受けてくれるな?」


 答えはもう決まってる。何故って?大切人とまた会えるんだから


 「もちろん」


 「そういえば西島も被害者という話だが」


 「洗脳か何かを邪神に受けていたんじゃないのか?」


 「その通りだ」


 今までの話で薄々気づいていた。四か月前唐突な性格の変化。四か月前と言ったら邪神たちが高校生を転生させ始めた時期と一致する。


 「西島を許すのか?」


 あいつに非は無いのは分かった。もう許すべきなんだろう。でも、


 「今現在では何とも言えない。転生後顔を合わせてちゃんと話がしたい。それに許すかどうかは華怜が決めることだし。」


 その答えにオーディンは満足いったように


 「なら、そうするといい。」


 「あっちでの行動は割と自由だからな。好きにさせてもらうさ。」


 「じゃあ最後に転生するにあたっての注意事項の確認。ならびに転生の特典ギフトについての説明を始めよう。」


 まだ続くのかよ…。

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