第2話 選択

 華怜は誰からも好かれていた。

 灰色の髪に整った顔立ち。そんなに胸は大きくなかったが、美しいスレンダーな体型。桜が好きという可愛らしい一面もあった。しかし、華怜が誰からも好かれたのは決して他人に弱さを見せず誰の前でも笑顔でいてみせたからだった。

 でも、俺は知ってた。

 華怜は弱いって。

 誰にでも好かれる華怜は中学デビューだった。

 小学校の頃の華怜は人見知りで臆病で、何かあれば俺の後ろに隠れてた。

 そんな関係がお互いにとって一番良いと思って華怜の気持ちに一切目を向けず、自分の思いが伝わることは無いと考えてしまい思いを伝えずに違う高校に行き、疎遠になってしまった。

 疎遠になっても華怜の人気ぶりは凄かった。それ故に告白も絶えなかった。

 でも華怜は好きな人がいると断っていたらしい。

 それでも彼女を望むものはいた。体目的のクズもいた。でも、それだけだった。考えても行動に移す奴はいなかった。

 だが七月に華怜は襲われた。西島築城に。ケーキ屋に寄った後だった。

 (何故ケーキ屋に寄ってたかって?俺の誕生日を祝うのと俺に告白して一歩進んだ関係になろうとしたらしい。)

 それ以来華怜は心を閉ざした。

 幼馴染の俺にすら何も言ってくれなかった。

 そして、華怜は終わることを選んだ。

 許せなかった。華怜を壊したやつを。西島築城を。

 だから調べた。西島築城について。

 幸い俺はアニメに出てくるような陰キャではなく様々な友人がいたためそんなに難しくはなかった。

 西島築城について調べるとよくない話が出るわ出るわ。

 十八股はさすがに引いた。どう生きていたんだろうか?伊〇誠以上じゃないか?

 だが、そんな話も何故か全て四月以降の話。

 四月以前は優等生で評判は良かった。

 だから、本当に西島なのか疑った。何度も調べた。

 だが、犯人は華怜の日記にあった通り犯人は西島としか言いようがなかった。

 そして、先の流れ。よくわかんないやつに絡まれてんだぜ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

  「我の名は戦神オーディン。少年よ、その身に余る怒りとあと残り少ない運命を我に託してくれないか?」


 何言ってんだこいつ?厨ニ病か?だとしても俺の横にある死体は目に入ってるはず。なぜ動揺しない?

 内心いろいろ違和感がぬぐえないが何とか声を絞り出す。


 「えーと、とりあえずここに倒れてるのは死体だよ。」


 「わかっている。」


 「わかってんのかよ。なら早くこの場から立ち去った方がいいんじゃないか?共犯と疑われるぞ。」


 「質問に答えてもらってない。」


 「ごめん。もう一回言って。」


 「端的にわかりやすく言うなら異世界に転生しないか?」


 「ふざけてるのか?そんなのに付き合ってる暇はないんだ。俺はここの事後処理をしないと。」


 「殺人を犯したけどこの先どうすればいいか分からない。」

 

 俺はビクッと反応した。しかし、戦神は畳み掛けるようにこう言い放つ。


 「このままだと君は八日後には捕まる。これだけ時間がかかるのは発見が遅れただけだからだ。そして君は殺人者のレッテルを貼られまともな職に就けずにただ寂しく孤独死していくだけだ。ちなみにお前の家族はこの件を境に崩壊していく。これは私の質問にノーと答えた場合だ。」


 「ちなみにイエスと言ったらどうなる?」


 戦神は少し困った顔で、


 「それはわからない。本来人の運命は定まらないんだ。」


 「でも、さっきの話だと定まってたじゃないか。」


 「今回のようなものは特殊だ。例えば死刑宣告を受けたとしよう。どうあがいても決まった日に死を迎える。それが運命が定まったという状態だ。今回の君のもそれだ。」


 「てことはノーと答えたら決まった未来を、イエスと答えたら先の分からない未来をということか?」


 「そういうことになる。」


 俺はその答えにどうすればいいか悩む。しかし、現状自分がまともに生きれる可能性があるのは一択しかない。


 「というかそこまで悩むということは、私が戦神であると信じたということでいいのか?」


 その問いに対して俺は


 「信じる信じないじゃなくてあんたの言う異世界転生とやらにしか道が無いからそれができるというあんたに賭けるしかないんだよ。」


 「そうか」


 オーディンの返答はかなり乾いたもので克己もどう反応すればいいか分からなくなるが戦神がここで爆弾を投下する。


 「ちなみに今から案内する異世界には君の幼馴染とやらもいるぞ。」


 「え?」


 「色々事情が重なってここ四か月の高校生死者たちがその世界に転生しているようなのだ。」


 「てことはまた華怜に会えるのか?」


 「場合によってはだな。世界は広い。会えるかは保証しかねる。」


 俺にとっては涙が出るほど嬉しかった。なんせ華怜の魂が生きていたから。

 しかし、


 「ここ四か月の高校生死者ってことはこいつ、西島築城もいるのか?」


 「まぁそういうことになる。

 ただ、ここで勘違いを正しておきたい。」


 「勘違い?」


 俺は何が勘違いなのか分からない。何せ華怜を追い詰めたのは西島なのだ。ちゃんと調べたうえでの結論だ。

 それでも構わずオーディンは続ける。


 「染島華怜を追い詰めたのは西島築城ではない。」


 「は?」


 まったくもって俺は理解できなかった。

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