円卓神と神託の復讐者

波多見錘

異世界転生チュートリアル編

第1話 出会い

 2020年8月都内某所


 「はぁはぁ」


 荒々しく息を吐く少年の目の前には血だらけになった一人の刺殺体。そして見慣れない格好をした男が少年に話しかけていた。


 「我の名は戦神いくさがみオーディン。少年よ、その身に余る怒りとあと残り少ない運命を我に託してくれないか?」


 ・・・・。


 「は?」


――――――――――――――


 今日はずっと雨が降ってる。朝からずっとだ。俺はある男をあまり人が寄ってこない廃ビルに呼び出していた。


 俺こと呉島克己くれしまかつみはある男と対峙している。男は不機嫌そうに、


 「なー、俺が何したってんだよ」


 白々しくそんなことを言い放つ男――西島築城にしじまついきに俺はある手帳を見せ、あるページを読み上げた。


 『大事なものを奪われてしまった。友達だと思ってた西島君に奪われた。ずっと大切にして大事な人に捧げようと思っていたものを、ただ、自分の快楽のために、私の体をもて遊ぶように奪われてしまった。許せない。でも何もできない。思い出すだけで自分が惨めになっていく。』


 俺は無表情で読み上げてもう一つ紙を出して読み上げた。


 『ごめんね、克己。ただの一回も相談できずにこの選択を取ることに。最悪なのは分かってる。でも、克己の顔を見るたびに胸が締め付けられるようで辛い。もうこの人に自分の大切な初めてをあげることができないと思うと、とっても苦しい。だから迷惑をかけることになってもこれが一番だと思うの。これでお別れだね。さようなら克己、大好きだよ。』


 これもまた俺は無表情で読み上げて築城に言った。


 「最初の手帳は先月自殺した、染島華怜そめじまかれんの日記の最後のページ。二つ目が俺に向けられた染島華怜からの最後の手紙、遺書だ。華怜を自殺に追い込んだのは西島築城お前だろ。」


 指摘された築城は忌々しそうに


 「だったらなんだよ。俺を警察にでも連れていくか?正義のヒーローかよ。厨ニ病はモテないぞ。」


 こうも開き直られると呆れて何も返す言葉が無い。


 どうにかして言葉を絞り出す。


 「罪悪感とかそういうのは無かったのか?今のを聞いて少しはとんでもないことをした自覚はあるか?」


 そう聞くと築城は笑いながら、


 「ねぇよ、そんなもん。いいだろ、あいつもよがってたんだから。お互い気持ちよくなれたことが悪いことかよ。あ、それともあれか?あいつは俺の物的なやつか?そりゃ悪いことしたな。」


 こんなことを平然と言う築城に対してどす黒い感情とポケットの中にある物を出しそうになるが抑える。


 「華怜はこんな奴に人生を狂わされたのか。」


 「ちげぇよ。俺は人生の楽しみってやつを教えてやったんだよ。」


 俺の言うこと一つ一つ暴論で返される。


 聞きたいことは聞けたからこれでいいかな。後はなるようになるよな。


 そんな考えとは裏腹に築城はヒートアップしていく。


 「ツーか、俺みたいなイケメンに抱かれるんだぜ、感謝してくれてもいいんだぜ」


 もう我慢できなかった。


 理由なんてそれだけだ。


 俺は西島をしまっていたナイフで刺した。


 「――っ!痛い痛い痛い痛い痛い……!!」


 俺は笑いながら、


 「痛いだろ。当たり前だ。刺したんだから。」


 「お前っ、なにしたかわかってんのか?」


 「だから言ってんだろ刺したって。今までの会話で分かったよ。どれだけクズかってことが。警察に渡す?そんな温情がお前に掛けられるとでも?お前は死ぬんだよ。今この場で二度と不快な声を発せないようにしてやる。クズめ。」


 「クッソ。なんで俺が死ななきゃ、この人殺し…。」


 そこで西島築城のこの世界での人生が終わった。


―――――――――――――――――


 1時間後


 「どうしようか。」


 俺はこれからどうすべきかずっと考えていたがなかなかいい案が思いつかない。


 「でも、当たり前だよなー。結局俺がやったのは殺人。犯罪なんだからなー。」


 そんなことを考えつつ、うなっていると足音が聞こえてきた。


 まずい。今のこの状況を見られたら言い逃れは無理。かといって相手を殺すわけにはいかない。どうしようか。


 近づいてくる人影に対して対応を困っていると、もう目の前に人影(男)は来ていた。しかし、どうにも様子がおかしい。この男の顔が見えない。いや、わからないといった方が正しいかもしれない。フードみたいなものをかぶっているが顔は見えている。なのに顔の特徴が捉えられない。


 (なんだこいつ?)


 何も喋れない克己に対して男が口を開いた。


 「我の名は戦神オーディン。少年よ、その身に余る怒りとあと残り少ない運命を我に託してくれないか?」


 ・・・・。


 なんかやばいやつ来たよ。

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