12 マルク・シャノワーヌ

「そうなんです。セレーネからベンジャミンさんとの馴れ初めを耳にたこができるほど聞かされました」

「「耳にたこ?」」


(……もしかして、前世の言葉?ここにはない言葉よ。どっちにしろ良い意味じゃなさそうね)


エマは、セレーネと朝まで話したときに、前世の話をしていた。


「えー……何度も惚気話を聞かされたんですよ。羨ましいですよね、自分のことを好きな人がいるって。自由恋愛が推奨される時代にはなりましたけど、実際に自由恋愛している貴族はまだ半分くらいなんじゃないですかね。陛下達も恋愛結婚のようですし、お母様とお父様だって。でも、セレーネは……」


エマは言い淀み、チラッとイネスをみた。


「私のことは気にしないで話を聞かせて」


エマはイネスの言葉にコクリと頷いた。


「はい……。セレーネは、貴族の在り方に古い考えを持つ父親をひどく嫌がっていました。可愛がって育ててくれた両親、使用人には申し訳ないけどベンジャミンと駆け落ちをしたいとも。ベンジャミンさんに言ったら、駆け落ちをしても誰も幸せになれないと言われたみたいで留まったようですけど」

「駆け落ち……」

「はい……ベンジャミンさんは、セレーネがわがままを言ったり、自分勝手はことをしても、受け止めてくれてから、ちゃんと叱ってくれるようで、一緒にいるととても穏やかな気持ちになれるし落ち着くとも言っていました」

「そうなのね、それならそうと言ってほしかったわ……って、私もいけないわね母親なんだからちゃんと話を聞いたら良かったわ」

「イネス……今からでも遅くないわ。目が覚めてからでも話を聞いたら良いのよ」


ルイーズは落ち込むイネスの手を握った。


「主人……マルクね、片時もセレーネのそばを離れたくないと言って急ぎの仕事以外はずっとセレーネのそばにいるのよ」


(お父様……)


「目の下のたるみと隈も酷くて、この一ヶ月で痩せて一回り小さくなってしまってね………髪も薄くなってしまったわ」

「あの、ふさふさだった髪が?」


(私のせいだけれど……笑っちゃいけないのに笑っちゃうわ、はは)


「そうなのよ、毎日ごめんと懺悔しているわ。信じられないかもしれないけどね。マルクね、今の国に本当は賛同したいのよ。でも今までの自分を否定するみたいでなかなかね……あなたのご主人とも仲良くしたいのにプライドが高いから今さら言えないの。マルクの両親はとても厳しい方でね、そうはなりたくないからってセレーネを甘やかしたのよ。一人娘の可愛いセレーネに、結婚してから苦労をかけたくないからベンジャミンとの関係も反対したのよ」

「なるほどね、ご主人の気持ちもわからなくはないわ。子供はいつまでたっても子供、親は心配だものね」



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