3 身分違いの恋人

「え……」


エマはベンジャミンの横に現れた女性を見て驚き、ウィルを撫でている手を止めた。


「どうかしましたか?」

「え、いえ……宜しくお願いします」

「はい、では描いていきますね。多少動くのは構わないですが、辛かったら遠慮なおっしゃってください」

「ええ、わかりました」


ベンジャミンは、丸椅子に座り描き始めた。


エマは小さな声でウィルに話しかける。


「ウィル、見えてる?」

「にゃー」


(ちょっと、あなた。今私のこと見てたでしょ)


スッとその女性の霊は移動し、エマの肩に乗せるように顔を近づけてエマに話しかけてきた。


「きゃっ」

「にゃ゛ー!!」


エマとウィルが驚いて勢い良く立ち上がった。


「どうしました?」

「あ……猫に爪で引っ掻かれちゃって……その、ごめんなさい。集中しますね」

「………そうですか。……続けますね」


眉間にシワを寄せながらジュードがエマに近づいてきて小声でエマに話しかけた。


「……もしかしているんですか?」


エマはこくりと頷いた。


「……そうですか」


ジュードは再び扉の横に戻って部屋の中をキョロキョロ見ている。


(あはは、驚かせてごめんなさいね。……あの人は見えてなさそうね。見えているのは……あなたとその猫ちゃんだけかしら?)


「…………」


(ベンジーに変に思われちゃうもんね、返事はできないか……猫ちゃんは?見えてるなら返事してくれる?)


「………にゃ」


(この子も見えてるわよね?)


「………にゃ」


(何で言葉わかるの?)


「…………」


(まあ、いいわ。久しぶりに人と話せるわ!私はね、セレーネ・シャノワーヌ)


シャノワーヌ?……シャノワーヌってベンジャミンさんの元パトロンの家よね……?


(私のお父様は、ベンジーのパトロンだったのよ。私は一人娘だったこともあって甘やかされて育ったの。可愛いドレスやお人形を頼んでもないのに買い与えられたわ)


エマは笑顔を崩すことなく、ウィルとじっと座って聞いている。


「ねぇ、ウィル……セレーネってお嬢様このままずっと話続けるつもりかしら」

「……にゃ」


エマは小声でウィルに話しかける。


(一昨年ね、お父様がベンジーを連れてきたの。お父様は私の肖像画だけでなく、遊んでいるところやピアノを演奏している姿を残しておきたいとベンジーに私の絵を描いてもらっていたのよ。それはもう数えきれないほどの量よ?もちろん、合間合間で他の絵も描いていてけれど……私とベンジーは一緒に過ごす時間が多かったわ……私の絵ばかり描いているのだもの。絵を書いている間も休んでいるときもいろんな話をしたわ……恋人関係になるのも自然なことだったのよ……だから、ベンジーに色目使ったら許さないわよ?)


セレーネは、エマににこっと笑ったが、その目は笑っていなかった。


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