16 メアリーの遺言書
翌日、裁判所に遺言書、レシピ帳等を提出。
一週間後にピーター、ジュリー、二人の息子のベン立合いのもと、検認が始まった。
遺言書には、
私、メアリーアローはなくなった際の財産
八割 ジュリー・アロー
二割 ベン・アロー
定食屋 アロー定食の全ての権利をジュリー・アローのものとする
ベルア暦634 5月5日
メアリー・アロー
尚、この遺言書は、友人、バート・ウィズリーに託すこととする
と書かれていた。
レシピ帳、メニュー考案ノート、手紙により、遺言書はメアリーのものと識別され受理された。
その翌日、ジュリーは探偵事務所に来ていた。ソファーにはエマとウィル、ジュリーとメアリーが座っていて奥にはマートンとジュードがいる。
「いろいろとありがとうございました。……この依頼って義母のものですよね?」
「え……」
「その……義母のことが見えると言っていたので………」
「はい!……メアリーさんが遺言書があることを教えてくれました」
「そうなんですね………これ」
ジュリーは、包みをテーブルに置いた。
「これは……?」
「……亡くなった義母の依頼だと思って用意しました。受け取ってください」
包みの中は銀貨三枚入っていた。
「その……少ないかもしれないのですが……」
エマはマートンを見た。マートンはエマに眉を上げにっと笑って頷く。
「……ありがとうごいます」
「いえ……店ですが、息子が勉学をやめて働きたいと言ってくれたので一緒にやっていくことになりました。今まで経営学を私に内緒で学んでいたようです。それから……主人ですが、離婚することにしました。昨日、義母からの手紙を読んで離婚しようと言ってきて……」
ジュリーの横に座っているメアリーをみると笑ってはいたが、エマにはどこか少し寂しそうに見えた。
「そうですか……」
「……ありがとうございました」
ジュリーは立ち上がり、お辞儀をし「また店に食べにきてください」といって帰っていった。
マートンはエマのところへ来て、「お疲れ様」と声をかけた。
◇◇◇
その夜、エマはウィルといつものようにベッドで寝ころがっていた。
「ねぇ、ウィル……メアリーさんこれで良かったのかな?」
「………あのさ、言ってないことがもう一つあったんだけど……猫の姿だと、メアリーさん見える」
「……そう」
「怒らないのか?」
「……もうあまり驚かない」
「そうか。で、メアリーさんだけどちょっと寂しそうだったな」
「そうなの……気になるなー」
「ジュリーさんが帰ったら消えたしな……店に行ったらいるかもしれないから聞いてみたら?」
「そうね……また食べに行こう」
数日後、エマはジュードを連れてアロー定食に来た。
そこでは、厨房に男が二人、料理を作っていて、っジュリーが料理を運んでいて、店内の席は埋まって賑わっていた。
「すみません、来ていただいたのに少しお待ちいただいても良いですか?」
「はい、大丈夫です。あの……厨房にいるのって」
「ああ、ふふっ。あれね、息子と別れた主人……元夫です。離婚が成立した翌日にここに来て、私と息子に土下座して働かせてほしいと言ってきたんですよ。義母もね、いろんな葛藤があったと思うんです……やっぱり息子は可愛いですからね。私もなんだかんだいっても見捨てることはできないんです。ふふっ。今は、息子と一緒にこき使ってます」
「そうですか」
エマ達は店の外で席が空くのを待つことにした。
店の外に出ると、メアリーが立っていた。
(よかったわ……エマちゃんありがとう)
メアリーは晴れた顔で笑いスッと消えていった。
「良かった……」
エマのポツリと漏れた声に
「お疲れ様です」
と、ジュードが頭をポンポンと軽く撫でた。
「……ちょっと、あなた従者よ」
「今は同僚です」
ジュードはいたずらっ子のように笑った。
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