15 小出しはやめて

探偵事務所に戻ってきたエマは、先程のジュリーとの話を伝えた。


「─────という感じで、ここで手紙を読んだときと違うことを言っていましたがどちらも本音だと言っていました」

「ふむ……」

「葛藤していたのね」

「葛藤………?」


────カランカラン


「おはようございます……」


見るからに疲れているロンが入ってきた、


「おはようございます。今お茶を淹れますね」


エマは、お茶を淹れに奥へ行った。


「お疲れ、ロン」

「お疲れさまです。シーナ、昨日は差し入れありがとう」

「いいえ」

「それで、聞き込みしてきましたよ。相手の女の名前はマチルド・オベール、年齢は35歳。家は六番地三一二。ピーターは、一緒に住んでいると言っていい程、この家で寝泊まりしています。マチルドはもともと娼婦で、マチルドの知人からの話だと、きっかけはマチルドがピーターを何年か前に引っかけたようです。身の上話で同情を引き、良いカモができたと買ってもらった宝石を自慢していたと言っていました。その身の上話は、両親は仕事で忙しく幼少期からひとりだったと、それが嫌で家を出て行くところもなかったので娼婦になった、家に戻ろうと思った時には両親は流行り病で亡くなっていたためずっと娼婦だといって気を引くのがいつもの手のようです」

「なるほど……その話だとピーターさんが入れ込むのもわかる気がしますね」


エマは淹れてきたお茶をテーブルに置いた。


「まあな。ピーターはマチルドに定期的に宝石を買っているようで、マチルドはその宝石をときどき金に変えているようです」


シーナは話を聞きながら奥の机で資料をつくっていく。


この日、資料を作り上げ、明日裁判所へ遺言書等を提出することになった。


◇◇◇


エマは、ベッドの上に大の字に横になっていた。その横には猫の姿のウィルもごろんと寝ている。


「葛藤かー……嘘つきって言われたり、仲良くなった子に恐がられて避けられるようになって友達がいなかった前世の記憶は今考えても辛いわ……今世も、いつ誰かに恐いと言われるんじゃないかって、いつも思っているけど……でもやっぱり人の役にたてるなら頑張りたいものね……」

「まあ、みんなそれぞれ何かしら葛藤と戦って生きているだろ」

「そうね……ウィルもいろいろあるのね、きっと」

「そうだな」

「そっかー……………って」


エマはガバッと起き上が、ウィルを見た。


「今喋ったわよね?」

「やべ………にゃー」

「いやいやいやいや、もう遅いから!あなた猫の姿でも話せたの?」

「まあな」

「なんで?なんで教えなかったのよ、嘘ついたの?」

「嘘はついてないよ。話せないのか聞かれてにゃーって言っただけ」

「…………なによ」

「おもしろいかなーと思ってつい」

「ついじゃないわよ………もう!小出しにしないで。他に言っていないことはない?」

「ないと思う」

「ウィル、信用なくすわよ」

「ははっ。ないよ」

「………そう」


猫の姿でも話せると知ったエマは少し嬉しくなり、その日の夜は寝るまで会話は続いた。

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