14 嫁と姑
「………ジュリーさん?」
事務所内は静まり返り、ジュリーのすすり泣きが響いている。
「……こんなに感謝されても……嫁いだのだって後悔していましたよ………でも、帰るところもないですし、誰に何を言われるか………仕方なくやったんですよ……意地です……感謝してもらう資格なんてないんです………でも、……もし遺言書が本当に私に店を継いでほしいと書かれているのなら、それが義母が望んでいるのでしたら、継ぎたいと思います」
(………そう、ありがとう、ありがとう)
「……すみません、宜しくお願いします」
ジュリーは慌てて立ち上がりお辞儀をし入り口の扉をあけ出て行った。
出ていくときにちょうどシーナとポールが出勤してくるところでぶつかりそうになった。
「わっ、危ない」
「……すみません」
ジュリーはペコリと頭を下げて走って急ぎ足で行ってしまった。
エマは膝の上に座っているウィルをソファーに置いて立ち上がり、
「すみません、行ってきます」
とジュリーを追いかけるため出ていった。
「え、エマ様?」
ジュードは「ちょっと待って下さい!」言い、ウィルと慌ててエアの後を追った。
「……皆していったい何なんだ?」
「何かあったんですか?」
ポールとシーナが不思議そうに入ってきて言った。
「ああ、今ジュリーさんが来てメアリーさんからの手紙を渡したんだよ」
「あぁ……なるほど」
「さ、ジュリーさんの方はエマ達に任せて、裁判所に提出する書類をまとめようか」
「「はい」」
◇◇◇
「ジュリーさん!!」
はぁ、はぁと息を切らしたエマ達がジュリーに追い付いた。
ジュリーは立ち止まり、手で涙を拭って振り返った。
「……なんですか?」
「あの……お話ししたいことがあるのですが、そこのベンチに座りませんか?」
エマは、道にあるベンチを手で指し示し二人はそこに座った。ウィルはエマの膝の上に座り、ジュードは少し離れたところで見ている。
「……おかしな話なんですけど、私メアリーさんが見えるんです」
「……え?」
エマはジュリーを見て、にっと笑ってから前を見て話を続けた。
「私、メアリーさんの姿がみえるんです。おかしな話ですよね。さっきもジュリーさんが手紙を読んでいる間メアリーさんが横にいてジュリーさんの手を握っていました」
「……………」
ジュリーは俯きじっとしている。
10分程が経ち、ジュリーが口を開いた。
「その……他に何か言っていませんでしたか……手紙を残してくれているなんて知らなかったですし、義母があんなことを思っていたなんて……世間知らずのまま結婚して働いて…義母のように明るく何でもできないから迷惑かけていたのは私の方なんです。先程言っていたことも本音です。でも……うちは男で一つで育ったから主人と結婚して義母と暮らすの、なんだかんだいっても好きだったんですよ……」
エマがジュリーを見ると、ジュリーの横に優しい顔をしたメアリーが立っていた。
(迷惑なんてことないわ……私もね、働くばかりで息子との時間はほとんどなくて息子に寂しい思いもさせたし、母親としても女としても苦労かけてすまなかった……ありがとう、本当にありがとう)
エマは、メアリーがジュリーの横にいること、話していることをそのまま伝えた。
ジュリーは「……義母が生きているときにもっと話せば良かった」と言い、深々とお辞儀をして帰っていった。
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