13 ジュリーへの手紙
「いえいえ、こちらこそご足労いただき、ありがとうございます。…エマ」
マートンはエマを見て手でソファーを指し示した。
「あ……すみません。どうぞこちらにお掛けください」
エマは、メアリーが座っている二人掛けのソファーの空いている方へ座るよう、案内した。
そして、マートンは「お茶をお持ちしますね」と言い、エマにウィンクをし合図を送って奥へ行った。
「あの……これ……」
ジュリーは二冊のノートをテーブルの上に置いた。
「……これは?」
「昨日言われていた義母の筆跡がわかる……レシピとメニュー考案ノートです」
「!!……ありがとうございます。拝見しても良いですか?」
「はい……」
(おや、懐かしいねえ)
エマとジュードは、ノートを手に取りパラパラと捲って読んでいく。
「あの、筆跡がわかったら返してもらえるんでしょうか?その…、すごく大事なものなんです」
「はい、お返しできますよ」
(ふふっ、大事にしてくれてるんだね)
「良かった……それと、一応これも……」
ジュリーは、封筒に入った手紙を四通置いた。
「この手紙は?」
「お恥ずかしいのですが……結婚する前に私と主人がやりとりしていたときの手紙です。遺言書の筆跡を調べるのに私と主人のもあった方が良いのかと思って一応持ってきました」
「……なるほど」
ボソッとついエマの口から出た言葉にジュードがエマの脇腹を肘で突いた。
「すみません、ありがとうございます。助かります」
「いえ……」
「こちらもお預かりしますね」
「はい」
「エマちゃん、メアリーさんの手紙を」
ジュードは仕事のときはエマちゃんと呼ぶようになった。
エマは頷き、テーブルにメアリーが書いたジュリー宛の手紙を置いた。
「メアリーさんがジュリーさんに書いた手紙です」
ジュリーは目を見開いてエマをみた。
「……読んでも良いですか?」
「はい」
ジュリーは手紙を手に取り封を開け、手紙を読み始めた。
「………ふ、……ふっ」
手紙を持っているジュリーの手が震えて、ポタ、ポタとジュリーの目から流れた涙が落ちていく。
ジュリーの横に座っていたメアリーがジュリーに寄り、膝の上に置かれ手紙を握っている手に、自分の手を重ねた。
(ジュリー……息子と結婚して嫁いてま来てから、慣れない環境で店や家での家事も任せてすまなかった。若かったからおしゃれしたかっただろうに……どうしようもない親子のところへ来てくれてありがとう。子供との時間を大切にしたかっただろうに……他人の介護を文句一つ言わず毎日してくれてありがとう。ジュリーに残した金がこれからの人生に役立ててほしい。売るなり好きにしてくれて構わない。今まで本当にすまなかった……ありがとう、感謝しているよ)
きっと手紙にもそう書いているのね……
「ふふっ…今更こんな手紙……」
ジュリーは涙を流し震えながら笑っていた。
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