8 お婆さんの霊2

「二番地に住むご友人のバート・ウィズリーさんに遺言書を預かってもらっているんですね」


(そう)


マートンはロンを呼び、書斎にある資料からバート・ウィズリーの住所を調べるようにと指示を出した。


(そう、遺言書よ。でもね、その友人も遺言書を預かってることも忘れるくらいにボケちゃってね、年も年だし先日亡くなったのよ……その遺言書は息子さんが持ってると思うんだけど……頼みたいってことはその遺言書を受け取ってほしいのよ)


「そうですか……その遺言書には何が書かれているか聞いても良いですか?」


(えぇ……私ね、早くに亭主を亡くしてね……まだ11歳だった息子を育てながら亭主と開いた定食屋をやっていたのよ。息子もね、大変だからって手伝ってくれて16歳になったときに進学はせず、ここで働くと言ってくれてね……おかげで店は続けられたよ。息子はね、20歳で結婚して……嫁はね、まだ17歳で若いのに私とも一緒に暮らしてくれて、家事も店の手伝いも頑張ってくれて……子供も生まれて息子も可愛がっていたんだけどね、16歳になって進学した頃から、夜家を空けることが多くなったのさ。私もね、息子には若い頃から遊ぶのを我慢させて手伝ってもらってたからね、周りの子が進学しているのに息子だけに働かせていた負い目があって何も言えなかったんだよ……店のお金も帳尻が合わない日も増えきて、私も嫁もわかってて何も言わなかった。日に日に息子の家族への態度も悪くなっていってね……私もその頃には年老いて、嫁…ジュリーの世話になっていたんだ。店も閉める日が多くなってきてね、息子も帰ってこないで外に女をつくってるし、子供もまだ学生、他人の世話をさせてまってジュリーには迷惑ばっかりだった……最期もね、ジュリーが看取ってくれたんだ……それにね、私が死んでから店はほぼジュリーがやってくれてるんだよ)


「…………」


(ああ…ジュリーには本当に悪いことをした。文句もなにも言わずにやってくれていたんだよ。嫁とはいえ、他人にさ。感謝しかないよ……だから、遺言を書いて残しておいたんだ。私が死んだら息子がより付け上がると思ってね……息子もね可愛いさ、でもジュリーは本当によくやってくれたんだよ…残してやりたくてね……自分の人生をこれから生きてほしくてね……)


「……そうですか」


(案の定、私が死んだら息子は威張り散らしてね、家に帰ってくるときはお金がなくなったときだけさ。ジュリーは、一人で定食屋を切り盛りしてくれているよ……活気はなくなってしまっているけどね)


「……遺言書をご友人の息子さんから受けとり、ジュリーさんに財産の相続人となってほしいということですね」


(そうさ……依頼を受けてくれるかい?)


エマは、マートンにメアリーから聞いたことを話した。


マートンは、うーんと言いながら腕組みをし、考えている。


「そうですね……。そのご依頼お引き受けしましょう」


(そうかい……ありがとう……)


メアリーはエマとマートンに笑いかけ、また明日来ると言ってお辞儀をし、消えていった。


そこへ、ロンが頼まれていた資料を持ってきて、話し合いが始まった。

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