4 猫の正体1

「え………」


エマが驚いて起きようとし、手を後ろについたが、滑ってベッドからそのまま落ちそうになった。

男は咄嗟に反応して「おっと、危ない」と片手で支え、エマは落ちずにすんだ。エマは「ひっ」とベッドから降り一歩二歩と後ずさりする。


「……あなたウィルなの?」

「ああ、そうだ」


エマは眉間に皺を寄せ不可解な面持ちで男を見る。


「何で?姿戻ってる……?子供じゃなかったの?」

「ははっ。まあ、落ち着けって」

「いやいやいやいや、落ち着いていられないわよ!…………ちょっと隠してください!」


エマはウィルが裸ということに気がつき、慌てて両手で顔を覆った。耳が真っ赤になっている。 


「ああ、悪い悪い」


ウィルはそばにあった枕で男のそれを隠した。


「ちょっと!!!!何で隠してるんですか!やめてください!もうその枕使えないじゃないですか」


エマはソファーに置いてある猫用のタオルを手に取り、ウィルに投げつけた。


「うわっ!冗談だって。別に汚いものじゃないだろ。失礼だな」


ウィルはタオルを受け取り腰に巻き付けた。エマはそれを確認してウィルをみて右胸が目にはいった。


「その紋章……」


ウィルの右胸には獅子をモチーフにした紋章が刻まれていた。


「ああ、これ?これはこの国の騎士団の紋章だ」

「騎士団……」

「そう。俺はウィル。今は第一王子、ジョシュア様の従者だ」

「……何で猫に?何で日本にいたの?」

「日本ってエマが俺を庇ったときのこと?俺にもわからないんだよなー。気がついたらあの場所にいて君が目にはいって見ていたんだ。エマの頭から血でて地面にひろがっていくところまでは覚えてるんだけどな……目が覚めたら戻っていたし…しかも猫の姿で……夢かな?」

「……なにそれ」

「そう、車!車だよ。誰かが女の子が車にひかれたぞって叫んでたんだ。あれって車っていうんだろ?」

「……そうよ」


ウィルは「すごかったよな、どんな仕組みなんだ」とか「乗ってみたかったな」とか一人でぶつぶつ言っているのをエマは冷ややかな目で見ていた。


「ウィル、あなたいくつなの?」

「20」

「20?嘘でしょ、私より上だったなんて……」

「ははっ。失礼だな……まあ、エマの胸は16にしては立派だもんな」

「………見たの?」

「ん?着替えの時「後ろ向いてって言ったわ」」

「向いてたよ。窓に映ってるのを見てただけだ」

「な、な、な、なにしてんのよ!」

「ははっ」


エマはソファーのクッションをウィルに投げつけた。


「俺は言われた通り後ろ向いただけだって」


なんて人なの!!乙女の着替えをみるなんて……って、まさか…………


「……あなた今人間の姿だけれど、いつでも戻れるの?」

「いや、今だけだ。夜だけ。でも日に日に人間に戻れる時間が増えている」

「夜だけ…………待って、朝ベッドにいるときって、もしかして夜隣で寝てたの…………?」


ウィルは、にやっと笑みを浮かべエマを見る。

エマの顔は真っ赤に染まり今にも湯気が出そうなほどだ。


「ははっ。エマは見ていて飽きないな」


その時、


────コンコン


「エマ様、何かありましたか?誰かといるみたいですけど、エマ様?…………開けますよ」


「え、待って……」


ジュードがドアを開け部屋の中を見て目をパチパチさせた。


「……エマ様とベッドに裸の男…………やばい、俺酔いすぎだな……寝た方が良いな」


ジュードはドアを閉め部屋へ戻ってしまった。


「「え……」」


エマとウィルは呆気にとられた。


「俺が言うのもなんだが、エマの従者あれでいいのか?」

「…………」


エマは何も言えなかった。

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