5 決意
エマは部屋に入ると、ベッドにダイブしクルッと仰向けになり枕を抱いた。
はぁー……マーヤが信じてくれた
信じてくれる人がいるって、こんなに嬉しいのね
お父様も信じてくれるかしら……
今世でも霊がみえたりすのね
生きている人の声は前世では聞こえなかったのに……さっきのお腹の子の声は聞こえたわ
……よっぽど苦しかったのかしら
でも良かった、あの子はこれで無事ね
この力で人助けができたのね……
前世では考えられないわ
実の親からも不気味がられ嘘つきと言われてたもの
初めてこの力があって良かったと思えたわ
もっとこの力を活かせることができないかしら……
この国は、女だって冒険者になれる……私だって働けるんじゃない? それに、私は侯爵令嬢といっても三姉妹の末っ子。ミレイユお姉様の婚約者のモルガン様は婿養子になる予定だし、オディルお姉様はウィズリー商会の跡継ぎの恋人がいるって聞いたし……お父様の許可が必要だけど……大丈夫なんじゃないかしら
もし働くことができたらどんな仕事が向いてるのだろうか……
前世で霊能力者といったらほぼ偽物だった
中には本物もいたけれど、霊視商法で高いものを買わせる人も多かったし……嘘つきって呼ばれても仕方なかったのかな……
ここには私を信じてくれた人がいる
ふふっ
本当に嬉しい。これだけで気持ちが明るくなるし、前向きになるもの
お父様に話そう……マーヤもお父様も信じてくれると言っていたわ。そうね……話して、相談してみましょ!
エマはマーヤが信じてくれると言ってくれたことでとても前向きに考えられるようになった。
今、昼前か…お父様のところ行ってみよ
善は急げっていうもの!!
この時間だと書斎にいるわね
エマは書斎へ向かった。
ーーーーコンコン
「お父様、エマです。今、大丈夫ですか?」
執事のセバスがドアを開けでてきた。
「では、失礼します」
セバスは机に向かって仕事をしているアルノーに礼をしエマに向きなおした。
「エマ様、どうぞお入り下さい」
「ありがとう」
エマが部屋へ入ると、セバスはドアを閉めた。
「もう少しで終わる。そこに座って待っていなさい」
アルノーは、エマに微笑み仕事をすすめ、エマは、「はい」と返事をしソファーに腰を下ろした。
5分たった頃、アルノーがペンを置いてから立ち上がり、エマと向かいのソファーに腰を下ろした。
「すまない、待たせたね」
「いえ、忙しいのにごめんなさい」
「いや、構わないよ。さっき、屋敷がドタバタうるさかったのはエマが走っていたと聞いたよ。何かあったのかい?」
「…はい……ごめんなさい。そのことで、話したいことがあって…その……」
エマは、いざアルノーを目の前にすると、信じてくれなかったら、と躊躇してしまう。
「信じられないかもしれないけれど……私、霊視ができるんです…霊が見えたり、声が聞こえたり……さっきは、使用人のサンのお腹から「助けて」と声が聞こえて……」
「…ふむ。今しがた、ロナードが帰った。サンのことも診察してもらったよ。妊娠3ヶ月ほどだそうだ。サンには体調も考慮してできる仕事をしてもらうつもりだ。エマを気にしていたから、マーヤが上手く言っといてくれた……マーヤがね、エマの霊視のこと信じてほしいと言いに私のところへ来たんだ。エマの様子をみてずっと誰にも打ち明けられず悩みを抱えていたのではないかと」
「マーヤが……」
エマの目に涙が溜まっていくのをみて、アルノーは穏やかな顔でふっと笑った。
「確かに信じがたい話だな。でも私もマーヤと同じだよ、エマのことを信じる」
「お父様……」
溜まっていた涙が瞬きによって流れ出した。
アルノーはエマの横に座り直し、右腕を回しエマの頭を抱き自身の肩にのせた。
「お父様……ありがとう…それで……私、この力で人の役に立つことをしたいの。活かせる仕事はないかな……」
「……そうか。皆がエマのことを信じるわけではない、怖がる人も少なくはないだろう、簡単なことではない。それでも、仕事をしたいかい?」
「……はい」
「ふむ………」
アルノーはしばらく考えたのち「そうだな」といって、立ち上がり机に行き、名刺帳をぱらぱらめくってから、紙に何かを書き始めた。
「はい、これ。明日、ここに行ってみるといい。マートンには、私から話はしておくよ」
アルノーに渡されたものは、マートン探偵事務所の住所が書かれたメモだった。
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