3 声の先
(苦しい……助けて……このままじゃ死んじゃう)
部屋を見渡してみるが、エマの他に誰もいない。
……この声………とにかく探しに行かないと!!
声が気になったエマは勢いよく立ち上がり、部屋を出た。
廊下を猛スピードで走るエマを、すれ違う使用人達は何事かと振り返った。中には、
「エマ様!!お屋敷を走るのはおやめください!」
と追いかけてくるのは、ココの母である侍女長のマーヤだ。
「ごめん!今急いでいるの!見逃して!!」
エマの走る速度は変わらず、階段をかけおり、声のする方へ走っていく。その間も声は聞こえている。
はぁ…はぁ……ここだわ……
エマが止まったのは、厨房。
エマはドアをそっと開け、中を覗いた。
厨房の中では、料理長やキッチンメイド達が朝食の後片付けや昼食の準備をしていた。
……見つけた!あの子だわ
エマの視線の先には、ふくよかなメイドが篭いっぱいに入っている、じゃがいもやにんじん、玉ねぎなどの野菜を運んでいる。
「はぁ、はぁ……ゴホンッ。エマ様、お屋敷は走らないと常日頃言っております!今日という今日は「サン!!」
マーヤがエマを叱ろうとした時、エマは大きな声でメイドの名前を呼び、サンの持っている篭を取り上げた、
「「エ、エマ様?!」」
サンとマーヤは目を見開き驚いた。厨房にいた使用人は何事かと手を止め、エマとサンを見る。
「あ、ごめん……」
エマは周りをぐるっとみて自分が注目されてることに気がついた。
「…みんな、邪魔してごめん。気にせず仕事を続けてちょうだい。サン、ちょっと来て」
エマは、篭を近くにある台の上に置き、サンの手をとった。
「ごめん!サンを借りていくわね!」
そのまま、サンを引っ張り厨房を出ていき、この時間、誰も使っていない食堂にサンを連れていった。その後ろからは、マーヤがついてきている。
「サン、座って」
エマは椅子を引き、サンに座るように言った。
「え…あの……エマ様?」
サンは、自分が何で呼ばれたのかわからずエマとマーヤの顔を交互に見る。
「マーヤ、外に誰もいないか確認して鍵を閉めてちょうだい」
「……かしこまりました」
マーヤは眉をしかめ、何か言いたそうな顔をしたがしぶしぶ指示された通りにすることにした。そして、サンは恐る恐る椅子に座り、エマはサンと向き合うように椅子を動かし腰を下ろした。
「驚かせてごめんなさい。……落ち着いて聞いてほしいのだけれど……サン、あなた妊娠してるの?」
「…え?私がですか……?」
サンは思ってもみなかったことを言われ驚いた。
「妊娠……」
「サン、そうなの?」
マーヤが戻ってきてエマの後ろに立つ。
「妊娠しているかわかりませんが……その、心当たりはあります…」
「そう……今日はこの後、お母様の診察でロナード先生が来るはずだから診てもらいましょう」
「いえ!そんな、私など診てもらうなんてなりません」
「何言ってるの、うちの使用人はみんな家族みたいなものよ!サン、あなた最近体調はどう?おかしなところはない?」
「……ありがとうございます。そうですね…、言われてみたら食欲がないときもあったり……好きなお肉料理も食べると気持ち悪くなったりしますね」
「そう……マーヤ、サンの仕事減らすことできるかしら?」
「大丈夫です!私、仕事できます!」
サンは慌てた。
「そうですね、そのように手配します」
「サン、体調が悪かったらすぐ言ってちょうだい。それから、重いものを持ったり走ったりしないように」
「……はい、わかりました」
サンが今の体調は良いというので、エマはサンに無理はしないように言い、サンを仕事に戻した。サンが戻るとき、お腹の子が
(お姉ちゃん、ありがとう。会えるの楽しみにしてるね)
と言っていたのでエマは安堵した。
食堂は、エマとマーヤの二人きり。
エマは、マーヤに何か聞かれる前に部屋を出ようとドアの前まで来たとき、マーヤに呼び止められた。
「エマ様……サンが妊娠してると、なぜ思ったのですか?」
エマは肩をビクッと震わせて振り返った。
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