邂逅と涙
始業式はいつも通り話を聞き流していたら終わった。よく小説で校長の話は長いって言われてるけど、僕の学校だと校長の話そんなに長くないんだよなー。ほかの学校ではどうなんだろう。
そういうわけで放課後になったわけだけど、今までにないくらいこの教室は騒がしい。まあ、言わずもがな分かってるだろうけど。
「新浜さん前はどこに住んでたの?」
「こっちに来て街に探索に行ったりした?よかったら紹介するよ?」
などなど、みんな新浜さんとお近づきになりたくて仕方ないようだ。あれだけ美人なら当然だろう。まあ、僕はゲーム制作したいから帰るんだけど。え、違うよ?友好関係が浅くて広いタイプだから遊びに行く人がいないとかそういうことじゃないよ?と、誰に向けてか分からない言い訳を心の中でしながら、変える支度をする。支度を終えたら、タイミングよく美咲が近づいてくる。
「雪斗、帰るなら一緒帰ろう。」
「うん、そのつもりだった。けど美咲大丈夫か?」
「え、何が?」
「いや、今日いつもより元気ないなーって思って。」
「え、うーん、そんなことはないと思うけど・・・。まあ、心配してくれてありがとね。」
「そういうなら良いけど・・・まあ、帰ろうか。」
本人が大丈夫というので、あんまり心配しすぎるのもどうかと思い何も言わずに帰ることにした。聞かれたくないことはだれにでもあるだろう。本人が言いたくなったら言うだろうし、まあ、大丈夫でしょ。
* * * * *
家についてゲーム制作に取り掛かる。しかし、そうそう良いアイデアは浮かばない。夜ご飯を食べた後も取り掛かったが結局思い浮かばなかった。なので、気分を切り替えるために散歩にでも行くことにした。
夜の風が今の僕にはちょうど冷たくて気持ちいい。5月の夜なら風は寒すぎることもないし、いい感じだなー。そう思って近くの公園を通り過ぎるとき、ベンチに座っている女性が静かに泣いている声が聞こえた。気になってしまった僕は様子を見に行ってみることにした。僕が近づいても、その泣いている女性は気づいた様子もないのでよっぽど悲しいことがあったのだろう。心配になった僕は声をかけてみることにした。
「すいません。大丈夫ですか?」
さすがに相手も気づいたのか顔を上げる。その顔を見て驚いてしまう。なんと、その泣いている女性は新浜さんだったのだ。今日の教室でみんなに囲まれて、困りながらも浮かべていた笑顔とは打って変わり、彼女はとても悲しそうに顔をゆがめていた。
新浜さんは慌てた様子で涙をハンカチで拭いて立ち上がる。そして申し訳なさそうな声で僕に話しかける。
「ごめんなさい!見苦しいところを見せてしまって。あと、ごめんなさい。私今日転校してきたばかりでみんな顔と名前を憶えていなくて・・・・」
「えと、僕の名前は浅間雪斗。同じクラスだし、これからよろしくね。だけど、大丈夫?すごく心配なんだけど。」
「え、えと大丈夫です。本当にお見苦しいところを見せてしまって申し訳ありません。今日はもう夜遅いので帰ります。それでは、また明日。」
「う、うん。また明日。」
相手が助けを求めてもいないのに、聞き出すのもよくないと思い何も言わずに見送ることにする。
しかし、そうはならなかった。彼女は公園を出る途中で思いっきりつまずいてこけたのだ。漫画のようなこけ方だった。よほど精神的に苦しんでいるのだろう。どうしても放っておけなくなった僕は、彼女にもう一度話しかけてみることにした。
「新浜さん、ホントに大丈夫?かなり心配なんだけど。」
「・・・・・」
彼女はまた泣き出してしまう。それはこけた物理的な痛みからではなく、精神的な悲しみから泣いているようだった。
「ついさっき話したばかりの人が何言ってるんだって思うかもしれないけど、つらいことがあった時って、誰かに話したほうがいいこともあるよ。一人で抱え込んでもだめだと思う。」
「・・・会ったばかりのあなたに話すのは気が引けてしまいます・・・」
「気にしなくていいよ。というか、そんなに悲しんでる人を放っておくことできないよ。」
「・・・長くなるけど、聞いてくれますか?」
「もちろん。僕は慰めるのとかはうまくないから聞くだけだけどね。」
そして、ゆっくりと新浜さんは悲しんでいた理由を話し始める。
新月のこの日、夜風は何の計らいか落ち着いて、彼女の悲しそうな声は、皮肉にもきれいに夜の底まで響いていた。
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