街行く人々の赤い糸


「もー、雪斗。もっと早く起きてよね!」

「ごめんごめん!ちゃんと次から起きるから!」

「雪斗いっつもそういう癖に起きないじゃん」


 いつものように会話をしながらだらだら学校へ向かう。まあ、走らないと間に合わないほどは寝坊してないし、朝ごはんを食べる、というより飲んできたので、いつもより早いくらいだ。だからこうしてだらだら歩いているわけだけど・・・

 結局この赤い糸は何なんだろう。さっきから美咲と話しながらも気になって仕方ない。けどやっぱり、触ろうとしても実体がないのか触れない。そのうえ、この赤い糸がピンと張ってどこかに伸びているのも分からない。しかも、この赤い糸は人込みをものともせず道行く人を貫いて伸びているし、周りの人も気づいていない。実態がない証拠だろう。美咲に聞くことも考えたが、どうせ寝ぼけてるだけだとでもからかわれるだろうから何も言えなかった。

 町行く人々を観察してみると、その他多くの人にも、赤い糸が左手の薬指に巻き付いていた。隣の美咲にもやはり左手の薬指に赤い糸があった。やはり美咲も気にしていない様子だ。周りの誰も見えている様子はない。どうやら僕だけが見えているようだ。ほとんどの人の赤い糸がどこかに向かって伸びている。ある程度近くにいる人の赤い糸は見えるから、どこかに侵入しようとする怪盗にでもなった気分だ。もっともアニメなどとは違って、赤い線に触れても通報されるとかはないんだけど。

 ふと目の前を歩く手をつないだカップルを見てみて驚く。なんと彼氏と彼女の左手の薬指の赤い糸がつながっていたのだ。誰かとつながってるものなのかと気づく。その後、街行くカップルを観察してみると、何組かのカップルはやはり赤い糸がつながっているようだった。気になるのは、指輪をつけている夫婦同士でつながっていない人はいなかったということだろうか。まるで物語に出てくる「運命の赤い糸」だ。まさかね・・・・

 そう考えこんでいると隣から美咲が僕の服を引っ張りながら話しかけてきた。


「・・・雪斗?私の話全然聞いてないでしょ。さっきから左手気にしてるけどどうしたの?突き指でもした?」


 そう言われて、美咲の話を全く聞いてなかったことに気づく。やば、美咲にまた怒られる!そう思って美咲のほうを見てみると驚いてしまう。予想に反して美咲はなぜか悲しそうな顔をしていたからだ。そんな顔を見るのは久しぶりだった。いつも笑顔を振りまいている彼女には似合わない表情。


「美咲こそどうしたんだよ?すごい悲しそうな顔してるけど・・・」

「え?うそ?・・・・・いや、何でもないよ!話聞いてくれなかったから悲しくて顔に出ちゃったのかも!」

「え、それは美咲らしくないなー。いつもなら「話聞いてよ!」って怒って殴ってくるところなのに」

「私のこと何だと思ってるの?」


 しまった。結局怒らせてしまった。この後美咲に軽めのパンチを食らったのは言うまでもない。はあ、結局この赤い糸なんなんだろう。



* * * * *



そうこうしているうちに学校に着いた。美咲とは席が離れているから、教室のドア付近でいったん手を振って別れる。僕が席替えで外れくじを弾いて一番右前にいるのに対し、美咲は超当たりの窓際の一番後ろの席にいる。はあ、なんて羨ましい。

 この前席のことについて、美咲に文句を言ったら、「まあ、私主人公だから。この席になったのも当たり前だよね。 」と言われた。チクショウ。(主人公僕じゃないんかい。え、どうなんですか?)

そんなしょうもない会話を思い出しながら自分の席に向かうと、


「雪斗おはよ!」「浅間君おはよう」


と席が近くのクラスメイトから挨拶される。僕の友好関係は浅くて広いタイプだから挨拶する人には困らない。まあ、朝学校来て挨拶する友達がいるのは幸せなことだよね。


「みんなおはよう!」


そういってクラスの人たちと適当に挨拶しあってから席に着く。あと10分くらいでホームルーム始まるからあんまり話してる余裕はない。僕はそれまでにやり忘れた宿題をパパっとやることに決めた。勉強は別にそこまで嫌いじゃないのに宿題だけはどうしても好きになれないんだよなー。そう思いながらも怒られるのは嫌なので、埋めることだけを考えてすらすらと手を動かす。選択肢の問題は適当につけるのが時短のコツだ!(良い子のみんな、マネしちゃだめだぞ?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る