目覚まし時計?と赤い糸


「・・・・い。・・・なさい!」


何か大きい怒鳴り声が聞こえる。きっと母さんが一階から大声で僕を起こしている声だろう。起きなきゃ、起きなきゃ。・・・わかってるんだけど・・・


「眠すぎ!無理!・・・二度寝しよう。」


僕は母さんの声を無視することに決めた。ああ、二度寝って最高だな。そう思って、ベッドで眠っていると、ピーンポーンと呼び鈴の音が聞こえる。・・・これはまずい。僕は全力で布団にくるまる。この先何が起こるかはわかってる。わかってるけど必死に抵抗することに決めた。まあ、この時点で目は覚めてしまってるんだけど・・・。二度寝って意地みたいなところもあるよね!そんなバカなことを思っていると、一階から何やら話している声が聞こえてくる。


「あら、美咲ちゃん、来てくれたのね!ありがとう。雪斗今日も起きてこないのよ・・・美咲ちゃん、いつも悪いのだけど、お願いしてもいいかしら?」

「はい!任せてください!では目覚まし時計美咲!出勤します!」

「ふふ、ほんといつもありがとね。」


ああ、僕の平和な朝が。終わりを迎えるのを自覚する。まもなく、

ドドドドドドドドド

とものすごい音が聞こえる。うわー・・・。毎度のことだけど、美咲はどれだけ全力で階段上ってるんだよ。ヘリコプターが上空通ってる時よりうるさいんじゃないか、と思うほどだ。(それはさすがに言いすぎかな?)うちの階段そろそろ壊れるんじゃないかなー・・・はあ。最後の抵抗だ、頑張るぞ。

バーン!と、大きい音が響く。美咲が全力でドアを開けた音だ。美咲が僕を起こしに来るとき、いつもそうやって全力で開けるせいで、うちの壁はドアノブでちょっとへこんでしまっている。

美咲がベッドに近づいてくる。そして僕の耳元でこう言った。


「ゆっきとー!!起きろー!!!朝だー!!!」


相変わらずうるさい。加減を知らないのかこの幼馴染は。それでも昨日夜更かしした僕は、起きないことに決める。こっちは動画見るので忙しいんだよ、と自分に向けた言い訳を心の中で放つ。

突然、布団がめくられる。あ、おわたー・・・これはプロレス技をかけられるときの奴だ!そうなる前に起きることに決めた。


「あ、起きた!おはよー雪斗。私のハサミギロチンは受けてくれないんだね。」

「いや、必殺技!?殺すつもりだったの!?」

「あはは、冗談だよ。今日から転校生来るらしいね。楽しみだね!」

「僕は普通かな。仲良くできるならするけどね。まあ、準備するから学校行こう。」

「むー、さっきまで悠長に寝てたくせに」

「はいはい、ごめんって。」


このくそうるさい目覚まし時計・・・間違えた、この幼馴染の名前は朝比奈美咲。幼稚園の頃からずっと一緒にいた幼馴染だ。さっきまでの様子から説明しなくてもわかるだろうけど、豪放磊落・活発な少女だ。かわいいとクラスの男子に人気だけど、僕は恋愛感情を美咲に全く持っていない。ああ、この自分語りを聞いてる人には羨ましいだの調子乗りやがってだの思われてるんだろうなー。そんなつもりは本当にないんだけど。まあ、誰も聞いてないからいいけどね笑。(え?読者が見てるよって?何の話?)やっぱり、ずっと一緒に育ってきた幼馴染に恋心は抱けない。どちらかと言えば、めちゃくちゃ仲いい親友って感じだ。


「雪斗?先に外出て待っとくからねー?10分で朝ごはん食べて出てきて!」

「10分!?」

「当たり前じゃん。寝坊した雪斗が悪いんだから。」

「わ、分かったよ。急いで食べて行く。」


ぱたぱた、と今度はゆっくり階段を下りる音が聞こえる。起こしに来るときもゆっくり階段上れよな・・・

 そういえば、僕の自己紹介を忘れていた。僕の名前は浅間雪斗。平均くらいできればそれで満足しちゃうタイプの人間だ。基本的にはだらだら動画見たりして日を過ごすんだけど、最近はゲーム制作をしようと奮起してプログラミングの勉強を頑張っていたり、やっぱりだらだらしたり。そういう人間だ。


ああ、まだ眠い。そう思って左手で目をこすろうとしたとき、一瞬赤い線が見えた気がした。気のせいかと思って自分の手を見てみると、左手の小指に赤い糸が結ばれていた。ゴミだと思って払おうとしても取れない。糸を掴んで取ろうとした右手は、いつの間にか空をつかんでいた。気になってよく見ると、この赤い糸は、壁を通り抜けてどこかにまっすぐ伸びているようだった。物理が大の苦手な僕でもわかるくらいに物理法則ガン無視である。重力をものともせず、ピンとどこかに向かって張っているし、壁はすり抜けてるし。え、ホントにナニコレ!?


「え、何だこれ?幻覚か?こんなの昨日までは見えなかったのに・・・」


 思わず声に出して疑問を持つ。もう一度その赤い糸を指から取ろうとするが、やはり右手は空を切ってしまう。思えば、左手にまったく糸が引っかかってる感触がないのもあまりに不自然だ。左手を振ってみてもやっぱり取れない。


「おーい!雪斗!早くご飯食べていかないと遅刻しちゃうよー!!」


 一階から美咲が僕を呼ぶ声が聞こえる。謎の赤い糸に気を取られて忘れてた!早く学校行かないといけないんだった。やば、美咲のタイムリミットだと、朝ごはん食べる時間7分しか残ってないじゃん!僕はいったん赤い糸のことは無視して学校に行く準備をすることにした。



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