第215話



「──凛」


 台風のように去って行った元彼はいい迷惑だったけど、凛に対する愛しさがまたひとつ増えた気がする。


「……まやちゃん、いたんだ」

 バツが悪そうに頭を掻く凛に


「最初から、聞いちゃってた」


 正直に白状すると、彼は舌を出して「バレちゃったかあ」と呟く。



 おもむろに歩み寄ってきた凛。


 そっと頬を両手で包まれて、おでこがくっつく。


「俺は、まやちゃんにしか興味ない。俺のはじめては全部まやちゃんのものだよ。そんで、俺の最後も……まやちゃんって決めてるから」


 なんかいろいろセリフの立場が違う気もするけど……。それでも、嬉しくないわけない。


「まやちゃんの初めてが俺じゃないのは知ってる……。もー、あの元彼にちょー嫉妬するよ……」


 いつだったか、私が付き合った三人を「倒してくる!」なんて意気込んでいた凛を思い出す。


「ごめん……」

「いいよ。そのかわり、まやちゃんの最後は全部俺にちょうだい?」


 至近距離で澄んだ瞳と目が合う。



 目を逸らそうとすると「逸らしちゃダメ」って甘く囁かれるから、ド必死で彼を見つめる。


「で、でも、そんなのわかんないじゃん……凛が私に嫌気がさすかも……」



 ──また、私。


 こんな可愛くないこと言って……ほんと嫌になる。



 でも凛は真剣な顔で言った。


「それは絶対にない」


 続けて何か言いかけるが止め、目を閉じてため息をつく。



「……いいよ。約束しなくてもいい」

「え……」



 ……もしかして、呆れられちゃった?


 そう思った時、凛は目を開け、とても優しい顔をしていた。


「──でも、覚えておいて。俺の最後は絶対に、まやちゃんのもの。もし、まやちゃんが俺に嫌気をさして別れたくなって……考えたくないけど、別れたとしても。俺はこの先、まやちゃんしか好きになれないから。俺の最後は絶対にまやちゃんなんだ。──これは俺の勝手だから、許してね」



 ……なんだろう。


 目頭が熱くなって、自分の瞳が潤んでくるのがわかる。


 それを隠すように俯いて呼吸を整えた。




「凛──」

「ん?どしたの?」


 落ちついたころ、今度は私が背伸びをして凛の頬を包み込む。


「一回しか言わないから、ちゃんと聞いといてね」


 私には逸らすな、なんて言っておいて自分は目が泳ぎまくり。


 私がこんな行動を取るなんて思ってもなかったようだ。


「え……。重いとか言わないでね!?別れ話とか嫌だよ!?」


 焦ったように抵抗するから

「違うし」


 ぐっと顔を近づけたら、顔を真っ赤にして大人しくなった。




「凛……。すきだよ。だいすき」




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