第212話


「マヤなんて呼ばないで」


「元彼が、なんの用なの?」


「まやちゃん、すっごい嫌そうだけど」


 元彼が答える隙も与えず、たたみ掛ける凛は「元彼」と聞いた瞬間、顔色を変えていた。


 今までの可愛い「ヤキモチ」じゃなくて──もっとイラついたような「嫉妬」。



「元彼は、話かけちゃいけないわけ?」

 余裕そうに笑う元彼にも


「は?ダメに決まってんじゃん」

 とクールキャラモード。


 急に冷たくなった声と表情に唖然とする元彼。


「は……」

 うん、わかるよ。


 突然のキャラチェンジはいつもながらに見事だ。



「俺のまやちゃんなんだから」

 

 ──真面目な顔してなんてことを。



 いくらクールキャラでも、言っていることは馬鹿な凛のままだからこれがまた違和感満載。


「ふーん」

 凛のことを上から下まで見て

「新しい男、できたんじゃん」

 私へ向き直ると少し意地悪そうに笑った。


「いや、あのね──」

「当たり前だろ?まやちゃんは可愛いんだから、他の男が放っておくわけないじゃん。俺も毎日はらはらしてんのに」


 凛の力説に

「え?マヤってそんな美人キャラだっけ?」

 って失礼なことを告げる男。


「ま、でも確かに綺麗になったな」

 切れ長の目を細めて優しく笑った。



 先生を忘れるためだったけど……彼のこの笑顔は、好きだった気がする。


 じっと懐かしい笑顔を見つめていると


「まやちゃん、俺だけ見て」


 凛が不機嫌そうに私の顎をつかんで、クイッと自分の方へ向けさせる。


 ……でた、イケメン以外がやったらドン引きされる行動。





「まやちゃん、時間だから上がっていいよ~」



 ……うちの店長って空気が読めないにも程があるよね。

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