第209話


「美琴ちゃんが凛のこと好きなのは知ってるけど……でも、ごめん。凛は譲れない……」


 そこまで言うと、また違う声が後ろから聞こえた。


「──違いますよ、マヤ先輩」


 振り返るとそこには、今回の喧嘩の原因でもある西川君がいつものクールな表情で歩み寄ってきていた。


「こいつが好きなの、神永先輩じゃないですよ」


 その爆弾発言に私と凛はぽかん、とする。


 美琴ちゃんは

「ちょっと!翼!?」

 と焦っていた。



 美琴ちゃんが凛を好きじゃないなら……今までの私たちを邪魔するような行動の意味は?


 凛と顔を見合わせて首を傾げた。




「──こいつが好きなのは、マヤ先輩、です」



 衝撃的な西川君の言葉に、一瞬私たちの時間が止まった気がした。



「……はい?」



 いやいやいや。

 なんだかカオスな状況になってきたぞ。


「え?まやちゃんは確かに可愛いけど……あれ?お邪魔虫って男なの?ん?」


 凛も混乱しているのか、ブツブツと独り言を漏らしている。


 観念した美琴ちゃんはため息をついてその真相を話し始めた。




「──だって!!私は断固!陸×マヤカップル推しだったんです!なのに神永先輩と、だなんて……納得いかなくて!」


 ぎゅっと唇を噛みしめる彼女はすごく可愛いのに。


 言ってることが滅茶苦茶すぎて可愛さが半減してるよ?


「マヤ先輩、ごめんなさい……今まで言った悪口、全部撤回します……。マヤ先輩が神永先輩に釣り合わないんじゃなくて!神永先輩がマヤ先輩に釣り合わないんです!!」




 ──でもこの話が本当なら、あんな風に凛を好きな素振りを見せる彼女は女優顔負けの演技力だと思う。

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