第202話


「俺はいつだってまやちゃんが一番すきなんだよ。だけど、あんなところを見られてまやちゃんに嫌われたらどうしようって、会って『別れよう』って

言われるのが怖くて……会えなかった」


 ごめんね、と頭を軽く下げる凛。


 相変わらず可愛いな、おい。


 ……馬鹿だよほんと。なんであんたが謝るの。



「私も……西川君のこと、ごめんなさい……」


 私がそう謝ると、驚いたかのように顔をあげた。


「まやちゃん、謝らないで……」

 よしよしと頭を遠慮がちに撫でてくれる。

 

 だけどいつまでも、凛の優しさに甘えてばっかりじゃいけないから。


「ううん、ごめん。ちゃんと連絡するべきだった。しようとしたんだけど、途中で遮られてできなくて。キスのことも……自分から言わなきゃって思ってても、なかなか言い出せなくて……ごめん」


 そう謝って頭を下げると、凛は私の目の前にしゃがみこんで見上げてくる。


 何故かその顔は喜んでいるように見えた。



「……嬉しい。ちゃんと、俺のこと考えてくれてたんだ……」



 ……ばかやろー。


 凛はどんだけ、私があんたのこと好きじゃないと思ってるの?



 私も同じようにしゃがみこみ、目線を合わせた。


「……当たり前でしょ。あんたは私の、彼氏なんだから」


 私の言葉に凛は俯いて自分の膝に顔をうずめる。


「もー……やっばい。すきすきすきすきすき。言葉なんかじゃ言えないくらい、すき」


 なんでこんなに恥ずかしげもなく言えるかな。


 そんな風に考えていると、彼の髪の毛の間から見えた耳が真っ赤になっていて──恥ずかしいのは私だけじゃないんだな、なんて。


 俯いている凛から見えないのをいいことに、笑ってしまった。


「──まやちゃんが西川のこと、好きになったんじゃないかってすっごい心配した。メッセージを送ろうとしても、指が震えて出来なくて……ちょーかっこわるいね、俺」


 俯いているせいでくぐもった声。



 今も、心なしか震えている肩。





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