第197話


「ほら、ゼリー。今食べられる?後にする?」


 家に帰ってきて、すぐに届いた陸からのメール。

 それに『ゼリー』と一言返信していたのを忘れていた。


「みかんでいいよね?あと、念のためりんごジュースと卵スープも買ってきたけど……いらなかったら元気になってから飲みな?」



 ……本当に陸は私のこと何でも知ってるよね。


 病気になった時に私が好むものを全部把握している。



 ゼリーは絶対みかんを選んでいることも


 りんごジュースは果汁100%じゃないと飲まないのも


 卵スープはこのメーカーのが好きなことだって



 ──細かいところまで、私が言わなくたって分かってるんだ。



 陸が持ってきた袋から出てくるものが全部私の欲しいもので、驚いて笑ってしまった。


「……なに?」

 急に笑い出した私を見て、首をかしげる陸。


「なんでもない。ゼリー食べる」

 そう答えてゼリーをもらう。


 熱があっても食欲はなくならないみたいで、ゼリーなんてぺろりと平らげてしまった。




「──で、なにがあったわけ?」

 ごちそうさまでした、と手を合わせたあと、陸はベッドに腰をおろして真剣な顔つきになる。


 その言葉に、凛とのことだと瞬時に理解した。


「あー……、喧嘩しちゃった。まあ私が全部悪いんだけどね」


 てへっと笑ってみても、陸の表情は変わらない。


「……そっか」

 納得できないって顔してるけど、それ以上は追及せず、再び私の髪を撫でた。


 そんな優しい手に安心して、涙腺が弱くなる。



 だけど、そばにいるのは陸なのに考えるのは凛のことばかりで。



 まだ怒ってるかな、美琴ちゃんと付き合うのかな──それなら私はもう用無し?


 そんなことばっかりが頭の中を巡って凛に会いたくなる。



「……もう、寝な」

 頭を撫でていた陸の手がそのまま背中に回り、ぎゅっと一瞬抱きしめられてから


 彼に支えてもらって布団に横になった。



「おやすみ、マヤ」

 見上げた陸の顔はなんだかいつもよりカッコよくて少しだけ、ときめいた。


「おやすみ……」

 そう返すといつも以上に優しく微笑んでくれるから──安心して目を閉じた。



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