第194話


 マヤは結局、そのまま早退した。


 ──というか、俺がさせた。



 泣きすぎたせいなのか、顔色も悪いし咳も出始めていた。

 また、倒れたら困る。


 凛にも会いづらいだろうし。



 そう考える俺は、とことんマヤに甘い。



 まあ、本音を言えば……またマヤが倒れて、凛に先を越されたら嫌だっていうのが大きい理由なんだけど。



 マヤが早退することを担任に告げて、送ってもらうことになった保健室の先生の車にマヤを乗せ、見送った。




「──さて」

 一息つくと、スマホを出してサッカー部の部長へメッセージをうつ。


『今日、部活休みます。』

 そして次に、マヤへ。


『帰り、なんか買って帰るけど。なにがいい?』


 


 ……本当、俺は彼女に甘い。




 教室へ戻って授業を受けるけど、考えるのは今頃家へ帰って寝ているであろう幼馴染のこと。


 ノートをとる手も止まって、斜め前の空席を見つめる。


 この席からは、いつもマヤの横顔がちらっと見える。



 髪を耳にかける仕草も


 問題が解けなくて難しい顔をするのも


 前の席にいる男に話しかけられて迷惑そうにするのも。


 見ていて思わずニヤけてしまう。



 そんなマヤの姿が見えないから、寂しく感じる。


 俺はノートをとることを諦めて机に突っ伏した。




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