第192話


 次の時間になっても、帰ってこないマヤ。


 ──まだ目を覚まさないんだろうか。


 授業中もソワソワと落ち着かなくて


「せんせー、お腹痛いんで保健室行ってきまーす」

 っていつもの調子で教室を抜け出した。




「あれ、いない……」

 ドアを開けて、シンとした保健室に違和感を覚える。


 ベッドのカーテンを開けてみても、俺の幼馴染の姿は見当たらない。


 なんだか不安になって、俺は保健室をとび出した。



 ──大丈夫だと。

 目が覚めて、教室に戻っただけだと


 自分に言い聞かせてみても焦る気持ち。



 ……なにかあった?

 泣いて、ないよね?



 なぜだか、嫌な予感が止まらない。


 いつも、こんな時は決まって俺の勘は当たってしまうから必死になるんだ。


 凛と付き合いだしてから、こんなこともなかったのに。



 

 俺たちのクラスが授業をしている教室から保健室までは一直線だ。


 マヤが教室に戻ったのなら俺と必ず鉢合わせするはず。




 ──クラスへ戻った?

 そう思って足を3‐2へ向ける。


 だけどそこにいたのは俺の思っていた人物ではなく──。



「あれ、君……」

 確か、マヤのバイト先の……後輩の女の子?


 マヤの席に座って、頬づえをつきながら鼻歌を歌っている。


「陸先輩!?」

 俺が声をかけると驚いたように振り返る。


「え!?ちょ……っ」

 俺は彼女の姿に驚いた。

 シャツのボタンは全開で、羽織っているだけ。


 ……なんで!?


 気まずそうにシャツを掴んで丸見えだった下着を隠す彼女。


「……マヤ、見なかった?」


 なるべく気にしないように問いかけると

「さあ……」

 と答えた。



 だけど──。


 

 ……ねえ、君。マヤに何かした?



 目が、泳いでるんだけど。



 そう言いたいのをぐっと堪えて教室を出る。



 今はこの子を問い詰めている時じゃない。


 ……早く、マヤのそばに。


 その一心で、屋上に向かって続く階段を上る。




 途中ですすり泣くような声が聞こえて、近づくにつれそれはだんだんと大きくなっていく。


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