第190話


「──まやちゃんっ!!!!」


 がむしゃらに走っていると、名前を呼ばれると同時に腕を引かれた。


 運動神経のいい凛に勝てるはずなんてない。



 追いかけてくれたことはすごく嬉しかった。



 だけど……

「あれはっ、違う……っ」


 なんだか言い訳じみた凛のセリフに、腹が立った。

  

 自分の行動は棚に上げて最低だと思う。



 だけど目から溢れる涙は止まってはくれなくて


「凛なんて……っ、だいっきらい……っ」


 思わず言った言葉に、凛は傷ついた顔をする。



 はっとして

「あ……ごめ……っ」

 謝ろうとするけど、ショックを受けている凛には私の声なんてもう、聞こえていないようで。


 居たたまれなくなって──私はまた、走り出した。






 凛はいつだって「俺ばっかり好きだから」って言ってたね。


 いつだって不安にさせてたね。



 ──ごめんね。


 言葉で伝えられなくてごめんね。

 行動で伝えられなくてごめんね。



 溢れる涙と胸の痛みは、その代償なのかもしれない。



 今の私を表すのは“自業自得”


 ──その一言だ。






 屋上へと続く階段を上りきったところで、崩れ落ちた私。


 涙は拭いても拭いても乾かない。


 どこかで凛がまた、追いかけて来てくれることを期待していたのだろう。



 足音が聞こえたと思ったらそれはだんだんと近づいてくるから、凛だと信じて疑わなかった。


 思わず体が固くなる。



 ……彼になんて言おう。

 ……謝らなくちゃ。



 だけど後ろにいるかもしれない凛の顔を見るのが怖くて、振り返れない。




「マヤ……?」


 足音がとまったと思えば聞こえてきた言葉。


 その耳慣れた声は思っていた人のものではなくて──。


「り、く……」


 振り返ったら、驚いた陸の顔が目に入る。

 涙でぐちゃぐちゃの私の顔を見て顔を歪めた。



「なに?どうしたの……?」

 慌てて駆け寄ってくる陸に、事情を話そうとするけど

「り、凛に……嫌われちゃ……っ」

 最後まで言えない。



 嗚咽が私の言葉を遮るから、陸には全く伝わっていないだろう。

「もう、言わなくていいから……」


 そんな私を見かねた陸が、そっと抱き寄せてくれる。


 いつも私を慰める時してくれていたように、優しく頭を撫でてくれる。



 ──今では二番目になってしまった、心が安らぐ陸の香り。


 だけどその安心感は変わらなくて再び涙が頬を伝う。



 私もいつもしてきたように、陸の背中に手をまわしてしがみついた。




 ……凛が、見ているとも知らずに。




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