第186話



「酷いですよね、麻井先輩……神永先輩っていう素敵な彼氏さんがいるのに……」


 瞳を潤ませる彼女に、他の男どもはときめいたりするんだろうか。


「……何が言いたいわけ?」


 悪いけど、俺は無理だなあ。


 顔は綺麗なのかもしれないけど──いや、やっぱりまやちゃんには敵わないな。



「私なら!神永先輩を悲しませることなんてしません!一番に、神永先輩を愛してあげられます!」


 お邪魔虫の言葉なんて、ほとんど聞き流していた。



 目線だって、机に書かれているまやちゃんの落書きにしかいかない。



 ……あー、かわいいな、このクマ。

 まやちゃんの字、綺麗だなあ……。



 そんなことを考えているうちに──静かになったと思い、視線をお邪魔虫にうつす。




 ──彼女はなぜか、制服のブラウスのボタンをひとつずつ外し始めていた。


「──ちょ、なにしてんの」


 慌てて立ち上がると、がっちり俺の腕を掴んで離さない。


「私が、慰めてあげます……」

 ボタンを全て外すと、彼女の肌や下着が見え隠れする。


 いや、ふざけんな。


「いらないんだけど」


 全くもって、興奮しない。



 すると、こいつ本当に女か?っていうぐらいの力で思いっきり胸を押され、床に倒された。


「なにしてんの、まじで」


 痛む背中に、イライラする。

 そんな俺に跨ってくる女。



 いや、冗談抜きで気持ち悪い。



 そんな俺なんてお構いなしに、ブラウスを脱ごうとするこの女。



 触れ合う肌も


 香水のきつい匂いも


 くすっと笑う顔も──



 何もかもが、嫌悪感しか生まなくて吐きそうだ。


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