第183話
「まやちゃんは、いつもそうだ。クールなのに、変なところで優しいから。……それが、俺はすごく不安だった」
彼の言葉が一つずつ、胸に突き刺さっていく。
「……西川の家へ行く時、俺のこと一瞬でも思い出した?一言連絡入れようとか、思わなかった?……別に『行くな』なんて言わない。でも、一応俺は彼氏なんだよ。隠すようなこと、してほしくなかった」
私からは彼の表情は見えないけど、きっと苦しそうに笑ってるんだと分かる。
「隠すなんて──っ」
「結果的にはそうなった!!」
連絡だって、しようと思った。
そう言おうと口を開くけど、凛の言葉に遮られた。
私に向かって声を荒げる凛なんて、初めてだ。
「それで、キスされたって……?」
「……っ」
──そう。
その出来事に触れられてしまったら、私は何も言えない。
反論の余地もないんだから。
「ふざけんな……っ」
こんな口調で、吐き捨てるように言われたことなんてなかった。
「西川は、まやちゃんが好きなんだよ……っ!?そんな男の家へ行って、看病? 病人だからって、油断してたんでしょ?まやちゃんよりも力だって強いに決まってる!!キスだけで済まなかったらどうしてた!?」
──ただ、涙があふれて止まらない。
謝罪の言葉ですら、出てこない自分に腹が立つ。
「俺ばっかりが好きで、ほんと、馬鹿みたいだ……っ」
怒りでなのか、悲しみでか──肩が震えている凛。
もしかしたら彼も泣いているのかもしれない。
いつも大切そうに触れてくれる優しい手も、今はきつく拳を握っている。
「……ごめん、頭冷やしてくる」
そう言って出て行った凛は結局、一度も私の方を見ることはなかった――。
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