第181話


 声のした方を向くと、そこには眉を下げて心配そうに私を見つめる凛の姿。


「まやちゃんが倒れたのが見えて、居てもたっても居られなくて」


 ……大げさに騒ぎながら駆けつける凛が想像つくわ。


「まやちゃん、軽すぎるんじゃない?もっと食べたほうがいいよ」


「なんだと!?凛が運んだの!?」


 ──聞き捨てならんぞ、それは!!


「え?うん」


 当り前でしょ、と謎に胸を張る凛。


「恥だ……」

 項垂れる私とは反対に


「お姫様だっことか夢だよね~!!」

 とニヤけている彼。


 ……いや、それ普通女子のセリフだから。



「……もう平気だから、教室戻る」

 そう言うと、また心配そうにするから何だか申し訳なくなった。


「大丈夫」

 安心させるように微笑んでみると、彼の表情も少し柔らかくなる。


 差し伸べてくれた凛の手を借りてベッドから降りた。




 ──ガラッ


 慌てたように大きな音を立てて開けられた扉。


「マヤ先輩……」

 そこに現れたのは


「あ……。西川君……」


 今会いたくない人ナンバーワンの後輩君。


 思わず気まずくて目をそらす。


 凛はそんな私たちの間に流れる空気に気付いているけど、口には出さない。


「……いこ、凛」

 そんな私に、何も言わずついてくる。



 ──だけど、西川君はやっぱり一筋縄ではいかない。


「……マヤ先輩、大丈夫なんですか」

 すれ違う瞬間に、声をかけられた。


 少し息を切らしていたから、急いで来てくれたのだろうか。


「──え?」

 思わず彼の方を向くと、西川君の真っ直ぐな目が突き刺さる。


「倒れたって聞いたんで」


 彼は何か企んでいる。


 ……そう、直感した。



 ちらりと凛の方を見て口角を上げた時、それが確信に変わる。


「俺の風邪──うつしてたら悪いなと思って」


 心臓が跳ね上がる。


 彼の言いたいことが分かった時には、もう遅い。


 凛にもその言葉は届いていたから。



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