凛の怒り

第179話


「まやちゃ~~~~ん!!おはよう!!!」


 登校中、凛の元気な声が歩いていた私の背後から聞こえて立ち止まる。



 ……振り向くのが、怖い。


 近づいてくる凛の足音とともに私の心に募っていく罪悪感。



 昨日の出来事が凛に知られるのが怖い。



 自分で言おうと、決めたけど。凛に嫌われるのがすごく怖いよ。



 凛は、昨日のことを知ったら──どう思う?


 怒る?悲しむ?幻滅する?


 呆れちゃうかな……。



 私の好きになった笑顔が曇ってしまうのが、すごく嫌だ。

 自分のしてしまったことに激しく後悔する。



「どうしたの?まやちゃん」


 いつの間にかそばに来て、私の顔を覗き込んでいる凛。


 一瞬、目が合って思わず逸らしてしまった。


「……まやちゃん……?」

 不思議そうにしている凛。


 凛の真っ直ぐな瞳を見ることができない。


 すべて見透かされてしまいそうで、だめなんだ。


 ……今、言うべきなのか。そう思って口を開いたけど、声が出ない。


 何度も何度も言葉を紡ごうとしているのに……喉が言うことを聞いてくれない。



「なに、なんか……悪い報告……?」

 私がなにか言おうとしているのに気付いて、凛が問う。

 その言葉にさえ、ビクッとしてしまう。


 ──そう、意外と鋭いんだよ。凛は。


 特に、私の感情には敏感なんだ。


 少し震える身体と、何も言わない私を見てなにかを悟ったようだ。


「──言わないで」

 凛がそう呟く。消えそうなくらい小さな声だ。


 思わず顔を上げると

「凛……」


 泣きそうな、こっちまで辛くなるような表情。


「まやちゃん、だいすきだよ」

 いつもくれていた言葉。


 無理やり作った笑顔に、胸が締め付けられた。

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