第178話


 首を振って拒否しようとしても、顎を掴まれて固定されてしまうと……それも無駄な抵抗に終わってしまう。


 何度も何度も、息が苦しくなるくらい深くキスされて。


 西川君の手が私の服の中に入って首元や腰を撫でる。



 ──長いキスが終わって、彼の顔が見えた。


 西川君の目からは涙が溢れていて、私の顔に雫が落ちてくる。


 そんな彼の姿は初めてで言葉が出てこない。



「す、き……」


 もう一度、触れるようなキスをして


「──ごめん、今日は、帰ってください……」

 なんて言うから



 私は返事もできず──ただ、言われた通り彼の部屋を出た。






 ……上手く、頭が回らない。


 西川君が本気で私を想ってくれてるなんて、思ってもみなかった。


 からかわれてるんだとしか、思ってなかった。



 そんな思いと同時に浮かんでくる、凛の顔。


 彼を想う気持ちに何一つ偽りはないのに。


 「凛を裏切ってしまった」──そう思うのはなんでだろう。



 正直に言って、謝ればいい。

 それで許してくれるとは思わないけど、言わないで隠すよりはずっといい。




 ──ごめんね、凛


 大好きなの。抱きしめて、ほしいよ。



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