俺の先輩

第171話



 ──俺には、お気に入りの先輩がいる。


「ああ、そこ置いといて」


 そっけなく言う姿も


「馬鹿言わないの」


 呆れたように言う姿も


「ありがとう」


 そう言ってはにかむ姿も。




 神永先輩に向ける照れたような笑みも

 顔を赤らめる姿も

 幸せそうな表情も


 全部全部、すごく可愛い先輩。



 最初は、神永先輩との関係をからかうと見せる反応が面白くて絡んでいたけど、途中からは正直マヤ先輩に構ってほしくて──俺を見て欲しくて。


 唯一、マヤ先輩のそばに神永先輩がいないバイト中。(まあほとんど客席にいるけど)


 それがいつしか俺にとっての幸せな時間になって。



 ……ああ、マヤ先輩が好きなんだ。

 そう、思った。



「おはよー……」

 いつものように、休憩室へやってきてバイトの準備を始めるマヤ先輩。


「おはようございま──っげほ……」


 二日前くらいから出はじめた咳が俺の言葉を遮る。


「え、ちょっと大丈夫?」

 振り返って俺の顔を見つめる。


 そんな彼女にドキッとしてしまうのは、惚れた弱みかもしれない。


「はい……」

 ゴホゴホとまた咳き込むと、心配そうに近づいてくる先輩。


「風邪?流行ってるのかな……」

 そう呟く。……流行ってるって??


 ……ああ、神永先輩か。

 そういえば風邪で寝込んでるんだっけ?



 俺を心配してくれるマヤ先輩の言葉でさえも、神永先輩に繋げてしまって──勝手に嫉妬してるんだからたちが悪い。

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