第170話


「──なんだか、新婚さんみたいだね」

 私の顔を覗き込んでにっこり笑うから、顔が熱くなっていくのが分かる。


「ば、ばかっ……」

 まやちゃん、顔真っ赤だー!って笑うけど……あんたも耳、真っ赤なんだけど。


「俺は将来、そうなればいいと思ってるよ?」


 照れ隠しに机の下で凛の足を蹴った。いてっ……と笑う凛は、一度大きく息を吸って真剣な顔になる。


「朝起きたらまやちゃんがいて、朝ごはんを作ってくれて。いってきますって言ったら、いってらっしゃいって声が返ってくる。帰ってきたらまやちゃんが出迎えてくれて……そしたら俺、どんだけ疲れててもどんだけ辛いことがあっても、生きていける気がするよ」


 いつもへらへらしてる凛だけど、このときは少し、悲しそうな顔になる。


「……大げさ」

 そんな凛を見てらんなくて、頭をよしよしと撫でてみるとまた、満面の笑みを向けてくれる。





「──そろそろ、帰るね」

 凛が食べ終わったのを見届けると、そう言って席を立つ。


 すると彼がまた寂しそうにするから

「また、来る」

 ってぎこちなく言った。


「……うんっ」

 はにかんだその顔がすごく愛おしくて


「……いつか、凛が妄想したみたいな未来がくるのかな?」

 彼のさっきの言葉を思い出す。


 凛はがたんと音を立てて立ち上がると、私を苦しいくらいに抱きしめた。


「……俺は、そのつもりだもん……」


 プロポーズされてそれを受けたみたいになって──単純だけど、凛との未来を夢見てしまった。


 ……そうなれば、いいのにな。


 そう、本気で思った。

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